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月と陽のあいだに 34

若葉の章

貴州府陽神殿(7)

 翌朝早く身支度をした白玲はくれいは、婆様ばばさまに連れられて、陽徳殿ようとくでんの祈りの儀式に参列した。大巫女おおみこに合わせて、居並いならぶ巫女や神官が祈りをささげる様子は、荘厳そうごんでありながら清らかだった。列の端に自分と同じくらいの子どもを見つけて、白玲は明日からの新しい暮らしに身が引き締まる思いがした。
 朝食のあと、白玲は学坊がくぼうという建物に呼ばれて、今日から寝食しんしょくを共にする姉弟子あねでしとお子に引き合わされた。一日のおつとめのことや注意事項を伝えられ、えんじ色のころもを渡されると、姉たちに連れられて、新しい住まいへやってきた。白玲のわずかばかりの荷物は、すでに運ばれていて、旅支度をした婆様が待っていた。
「今日からお前は神殿のお子だ。村にいた頃とは勝手が違うだろうが、しっかりお勤めするんだよ。体に気をつけて、一人前の巫女になれるように頑張りなさい」
 こくりとうなずいた白玲の頭を一つなでて、姉弟子たちに「この子をよろしく」と頭を下げると、婆様は坊を後にした。白玲は姉弟子に手を引かれて、涙がいっぱい溜まった目で、白玉石しらたまいしの道をくだっていく婆様の後ろ姿を見送った。

 その日から、白玲の生活は一変した。行儀ぎょうぎ見習いといっても、最初のうちは下働したばたらきのようなもので、掃除そうじなどの雑用ざつようと、正座せいざや立ち方、歩き方といった居振いふいの基本、読み書きの基本を身につける。
 朝早く起きて、掃除と洗濯、水汲みずくみをすませ、朝のお勤めと呼ばれる陽徳殿ようとくでんの祈りの儀式に参列する。それが終わると朝食で、そのあとは昼まで読み書きの勉強や立ち居振る舞いの練習がある。昼食が終わると、一刻いっこく(約二時間)の休憩きゅうけいの後、先輩巫女や神官のお手伝いをする。
 日没の祈りと大巫女の講話こうわが終わると、ようやく夕食になる。巫女や神官、見習いたちが、食堂じきどうと呼ばれる広間ひろまに集まる。一日で一番にぎやかな時間だ。そして片付けが終わると、湯殿ゆどのへ行ったり、自分の坊に帰っておしゃべりしたり、自由な時間になる。

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