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『火曜日の手紙』 〜読書の記録〜

火曜日、我が家の近くの公園に移動図書館がやってくる。
『火曜日の手紙』は、その車の書架からふと手にとった本だ。

『火曜日の手紙』 エレーヌ・グレミヨン 著
         池畑奈央子 訳
         早川書房  2014年6月25日 初版発行

母を亡くしたばかりの主人公の元に、一通の手紙が届く。差出人に覚えはなく、編集者でもある主人公は、最初はそれを小説の売り込みではないかと考える。
しかし、次の火曜日にも、その次の火曜日にも手紙は届き、その内容は次第に主人公の人生と交錯し始める。
主人公が生きる「現在」と、第二次世界大戦のドイツ占領下のフランスで起きた出来事を綴る「手紙」。二つの時代を行き来しながら、主人公の知らなかった生い立ちが明らかになっていく。

読者の目の前に、唐突に差し出された二つの世界。何の脈絡もないように見える世界を繋ぐのは「産むこと」。
主人公は恋人の子を孕っていて、それを受け入れない恋人とは破局寸前だ。
一方、手紙の世界は子を産めない女性に対する侮蔑と憐憫が、今よりずっと厳しかった時代。
夫への愛と自身のプライドのために常軌を逸した不妊治療に執着する女性と、彼女の代わりに子どもを産むことを提案する少女。けれども妊娠が進むにつれて少女は母性に目覚め、子を手放すことを拒む。
第二次世界大戦の戦火が、二人の家族をちりぢりにして、その人生を歪めていく。

手紙が届くたびに、まるで謎解きのように過去の事実が明らかになり、物語の節目に置かれた親しい人の「死」が、「産むこと=生」の持つ意味を一層際立たせる。
二人の「母」のあり方は、悲しいけれどしたたかだ。

「ほら、光を見て」
最終盤、失われた故郷の上を飛ぶ飛行機のパイロットが主人公に話しかける。
新しく生まれる命が、主人公の踏み出す先を照らしてくれるように願いながら、本を閉じた。

久しぶりに、ちゃんとした大人の本を読みました。

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