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月と陽のあいだに 83

浮雲の章

暗紫越え(7)

 やがて戻ったナダルは、ノウサギを持っていた。えさを求めて出てきたのか、木陰こかげにいたのをうまく仕留しとめられたという。今夜はご馳走ちそうだねと笑う二人に、白玲はくれいはどういう顔をしたら良いか迷った。
「外で解体して、料理も私がします。初めてのあなたには、少しつらいでしょうから」
ナダルはそう言って、再び外へ出て行った。
「私たちが普段目にしないだけで、他の生き物の命をいただいているのは、人も動物も同じです。山を歩いていると、そういう自然におそれも敬意も覚えます。厳しい山越えだが、あなた様には良い経験になるでしょう。それにノウサギの鍋は美味しい。楽しみしていらっしゃい」
 さとすようにコヘルが言った。午後いっぱい荷物の手入れをして、夕食はナダルが鍋物を作ってくれた。ノウサギの肉からよいダシが出て、干したキノコを入れると濃厚な味になった。最後は残った汁に乾飯ほしいいを入れ、雑炊を作って平らげた。

 久しぶりに温かい食事を堪能して、三人はこの先のことを話し合った。
 明日、天候が良ければ、一気に山の部族の集落まで歩く。輝陽きよう国を離れる直前に、ナダルは伝書鳩を飛ばしていた。鳩が順調に月蛾げつが宮に着いていれば、明日あたり援護えんごのものが集落に来るだろう。そこで合流して、月蛾国へ向かおうというのだった。
 月蛾国側の情報が入れば、どの道を選ぶかも決められる。輝陽きよう国で白玲の探索たんさくが始まれば、南湖なんこ太守たいしゅはナーリハイ伯爵にも連絡するだろう。アイハル謀殺ぼうさつに関しては、両者は一蓮托生いちれんたくしょうなのだから、ナーリハイ伯爵が白玲を無事に通すわけがなかった。

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