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月と陽のあいだに 73
浮雲の章
出奔(5)
宿駅に着くと、コヘルが待っていた。
「カイルさん、待っていましたよ。お内儀もご無事でよかった。山道は連れがあると心強い。ぜひご一緒させてください」
そう言って、コヘルは楽しそうに笑った。
「お内儀には、自己紹介がまだでしたな。私は薬草師のサクリョウです。カイルさんとは貴州府で知り合って、時々一緒に行商する仲でね。月蛾国へ帰るとお聞きしたので、同行をお願いしたわけです」
白玲は、女房のサエでございますと挨拶して俯いた。自分でも顔が赤くなるのがわかった。そうしている間に、馬を借りる手続きをしたナダルが、二人を呼びに来た。
「サエには大人しい馬を頼んだ。慣れるまでは、ゆっくり行こう」
三人は、それぞれの荷物を馬に乗せて、宿場を後にした。街外れの野原に出ると人通りは少なくなり、あちこちの畑で人々が野良仕事に精を出している。白玲が馬に慣れてきたのを見ると、ナダルは足を速めた。うららかな日の当たる田舎道を、三人を乗せた馬は、暗紫山脈を目指して進んだ。
一刻(二時間)ほど走ると宿場に着いた。ここは輝陽国側の暗紫関へ至る最後の宿場だった。宿駅に馬を返すと、三人は茶屋で休憩した。そして携帯食の焼き菓子を買うと、暗紫関へ向かった。日暮れまでには、まだ間がある。頑張って歩けば、最初の避難小屋で休むことができるだろうと、コヘルが言った。
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