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月と陽のあいだに 10

若葉の章

白瑶(4)

 溶け残っていた雪もすっかり消えて、日足ひあしが長くなった。ある日、草原にやってきた白瑶はくようは、いつになくはしゃいでいた。
「明日、田の仕事始めの神事しんじがあるの。あなたも見に来ない?」
種まきの神事で、仲良しの娘たちとともに、白瑶も早乙女さおとめの役に選ばれた。田のあぜに降りて、種まき歌を歌いながら、カゴに入った種をまくのだという。父にねだって、みんなとおそろいの新しいころもを作ってもらった。それをアイハルにも見てほしいと、ほほを薄桃色に染めている。
「ありがとう。せっかくの誘いだけれど、私はよそ者だ。村の人たちが集まるところへは、行かない方がいいと思う。君はきれいだから、新しい衣がきっと似合うだろう。お祭りを楽しんでおいで」
アイハルが断ると、白瑶はくようは残念そうにうつむいた。それでも、やがてうなずくと、明日ははなれにいてね、と言い置いて帰っていった。

 翌日は、朝から上天気じょうてんきだった。村人たちは、いつもより早くから外に出て、祭りの支度したくにかかっていた。この祭りが終わると、田の仕事が忙しくなる。今日ばかりは、男も女も着飾って、いそいそと陽神ようしんやしろへ出かけていった。
 人々のはずんだ声を遠くに聞きながら、アイハルは手紙をしたためていた。自分が暁光山宮ぎょうこうさんきゅうへ行けなかった時のために、月蛾宮げつがきゅうへ状況を伝える手紙だった。月帝には「目と耳」と呼ばれる直属の間者かんじゃがいて、月蛾国げつがこくはもちろん、輝陽国きようこくにもひそんで、さまざまな情報を集めていた。なんとかして彼らに接触せっしょくし、月蛾宮に情報を送りたかった。   

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