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月と陽のあいだに

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「あの山の向こうに、父さまの国がある」 二つの国のはざまに生まれた少女、白玲。 新しい居場所と生きる意味を求めて、今、険しい山道へ向かう。 遠い昔、大陸の東の小国で、懸命に生き…
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#幼少期の思い出

夜からの手紙 ~月と陽のあいだに 外伝~

夜からの手紙 ~月と陽のあいだに 外伝~

ハクシン(5)

 思い通りに歩けなくなった私は、月神殿の神官長にお願いして、特別に図書館の閲覧許可をいただきました。あの日あなたに話した通り、図書館が私の遊び場になったのです。それからは時間が許す限り、手当たり次第に本を読みました。
 どんな本でもよかったの。一人ではどこへも行けない私でも、本の世界では自由でした。杖なしで誰よりも早く走り、鳥のように空を飛び、魚になって大海原を泳ぎ回ることもでき

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夜からの手紙 ~月と陽のあいだに 外伝~

夜からの手紙 ~月と陽のあいだに 外伝~

ハクシン(4)

 母に懐く私を見て、乳母は私を失うと恐れたのかもしれません。外でたくさん遊べるように「体を丈夫にする薬」を私に飲ませるようになりました。
 私は幼過ぎて、その薬が本当は何だったのかわかりませんでした。
 初めのうちは何の影響もなく、背も伸びて普通の子どもと同じように健康でしたが、一年二年と経つうちに風邪をひきやすくなり、背も伸びなくなりました。それが薬のせいだったと知ったのは、ず

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夜からの手紙 ~月と陽のあいだに 外伝~

夜からの手紙 ~月と陽のあいだに 外伝~

ハクシン(3)

 もちろん私だって、こんないきさつを最初から知っていたわけではありません。でも幼心に「なんだか変だ」と思ったことはありました。母と私は、あまり似ていなかったのです。
 母は子を産んでも少女のようなところがありました。一緒に遊ぶときは、よくお人形遊びをしたけれど、私はそれがちっとも楽しくなかったの。
 私は囲碁や双六のような遊びが好きで、お人形を使った「ごっこ遊び」は嫌いでした。お

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