プログラミング教育__2_

小学校プログラミング教育で、なぜ内発的動機づけと自己効力感が大切なのか

2020年から小学校でプログラミング教育が必修化になる。先日小学生が活用するプログラミング学習用ソフトの指導者研修に2つ参加した。「ビスケットファシリテータ講習」とMITメディアラボの運営メンバーによる「Scratch(スクラッチ)を使ったプログラミング研修」である。ビスケットやScratchはビジュアルプログラミングといわれる。英語のコードを書くのではなく、メガネやブロックを組み合わせるプログラミングソフトである。

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研修に参加していた小学校教員に「周囲の教員はプログラミング教育について、どのようなイメージを持っているか」を尋ねたところ、「教員の中には、他の業務を優先しており、これから準備するところである。」「機材が備っていない状況で、プログラミング教育は本当に可能なのか。購入する予算がない。」といった声があるそうだ。

2017年兵庫教育大学の研究(R)では、小学校教員を対象にプログラミング教育の課題や教員研修に対する意識調査を行なった。調査では、小学校教員の全体の92.0%がプログラミング教育に関する自己の知識・理解の不足に課題を感じている。またモデル授業の実践事例集を必要としている教員が81.4%だった。教員の中には「プログラミング教育の知識が全然ないので、もし必修になったら、指導できるか不安。用語の意味が理解できないものが多いです」という意見もあった。

教員が課題や不安を感じる中で、プログラミングの授業を通して、何を子どもたちに届けることが良いのか、教育心理学の観点から述べていきたい。

なぜプログラミング教育に内発的動機づけと自己効力感が大切か

小学校のプログラミング必修化は、プログラミングという教科があるわけではない。文部科学省の小学校プログラミング教育の手引によれば、小学校で教育課程内でのプログラミング実施内容は4つに分類される。私が特に注目しているのは、第二版改定で追加されたC分類(各教科とは別実施)に記載される次の部分だ。「創意工夫により様々な取組を実施することが考えられる。例えば、プログラミングの楽しさや面白さ、達成感などを味わえる題材などでプログラミングを体験する取組み」である。

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教育心理学の視点からプログラミングにおける内発的動機づけと自己効力感の2つは極めて重要だと感じている。内発的動機づけとはプログラミングは楽しい・興味がある・好きという動機づけのことである。自己効力感とは、プログラミングを行える自信がある状態のことだ。

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2010年Maltese&Taiらの研究(R)によると、科学技術への興味(※1)は主に小学校を卒業するまでに確立されるそうだ。子どもたちは、小学校でプログラミングが楽しい経験であれば、将来の進路選択の1つとして考えることができる。興味を持つことで、継続的にプログラミング活動をする児童もいるだろう。

※1  興味とは、内発的動機づけを引き起こし維持することができるもの

一方で、プログラミングに対して興味があまりない状態であれば、将来の選択肢から外れる可能性がある。特に女子は男子に比べて関心が低く、大学時に、エンジニアやコンピュータサイエンスに進む割合が少ない。2006年Cooper(R)は、個人的な興味の性差は,男子に比べて女子の方がコンピュータへの関心や興味が低く、それは小学生の初期から始まっているそうだ。また2007年Beghetto(R)によると、女子は小・中学校での科学やコンピュータ能力への自己効力感が男子に比べて低い。理由として、小学校の低学年で女子は、男子よりコンピューターゲームやテクノロジーを使用した玩具で遊ぶ時間が少ないことも考えられる。

プログラミング体験により内発的動機づけと自己効力感があがる

2017年のワシントン大学の研究(R)では、小学1年生が1人20分間プログラミングによりロボットを動かす学習活動を行なったグループは、行なっていないグループに比べて、男女ともにプログラミング活動が楽しいという内発的動機づけ、プログラミングが上手にできるという自己効力感が上昇した結果になった。特に女子児童の動機づけや自己効力感が上昇した。この結果から、小学校でプログラミングに触れることで、小学生は「プログラミングって楽しい、自分にもできる」と感じる機会を作ることができると考えられる。

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プログラミングの授業で気をつけるポイント

2017年岡山大学の研究(R)では、講義型や協同型だと小学生のプログラミング動機づけにつながるが、個別型(テキストを見て単独でプログラミングを行う)では動機づけが上昇しないということが示唆された。この研究より、学校でプログラミングの授業を行うことは、講義型や協同型のためプログラミングが楽しい感覚を持ちやすい。特に子どもが興味・関心のある教科でプログラミングを行えば、なおさらのことであろう。2018年ペンシルベニア大学の研究(R)では、新しい内容の興味を引き起こす方法として、すでに学習した興味内容と新しく学習する内容で興味の接続が起こり、新しい内容に興味を持つことが明らかになった。例えば、算数に興味がある小学生が算数の授業でプログラミングを学習するとき、プログラミングへの興味も喚起されやすい。一方で、苦手な授業でプログラミングを体験することでプログラミングに興味がないという経験につながる可能性も考えられることも言えるだろう。

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子どもたちが語るプログラミングの面白さ

子どもたちはプログラミングの何に面白さを感じているのか。MITメディアラボの研究者は2017年にScratchプログラミングを行う子どもたちにプログラミングの面白さを5つに分類した(R)この研究では、Scratchを開発したMITメディアラボのチームが「なぜScratchを使用するのか」についてScratchのスタジオで子どもたちに対してアンケートを行なった。8歳から17歳の119名が回答した。

プログラミングの面白さ
①Create(つくる)
②Connect(つながる)
③Share(共有する)
④Learn(学ぶ)
⑤Have fun(楽しむ)

5つの項目の詳細は下記の表である。

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公教育でプログラミングの面白さを伝えられるのか

MITメディアラボの研究で分かった5つの要素について、授業でどのように取り入れることができるだろうか。小学校でどの程度行えるかは非常にチャレンジングなことだと言えよう。プログラミング教室や学校外のプログラミング活動では、時間的余裕が多いため、深く探求した創作活動がしやすい。しかし、公教育では制限がある。例えば教科の狙いや目標による制限。また時間の制限だ。一方で、公教育の良い点は、すべての小学生にプログラミングを学ぶ機会を提供することができる。今までプログラミングの活動経験がない小学生が、授業を通してプログラミングの楽しさを体感する大切な機会になるだろう。

内発的動機づけを導くために教員に何ができるか

過去の研究では、教員が児童の自律性の支援を行うことで、児童の内発的動機づけに影響を及ぼすことが明らかになっている。2006年のReeveらの研究(R)では、効果的な教え方を11点にまとめている。プログラミングを授業で行う際も下記のポイントを意識して行うことが効果的であるといえよう。

1.話を聞く
2.学習者がしたいと思っていることを質問する
3.個別に作業する時間を設ける
4.学習者の発言をうながす
5.席の配置を工夫する
6.理由を説明する
7.フィードバックで褒める
8.励ます
9.ヒントを与える
10.応答する
11.学習者視点で発言する

初めてプログラミングを体験する教員は何からすれば良いのか

東北大学大学院の堀田龍也先生はNew Education Expo2019 のご講演でプログラミング教育を実施するにあたりこのように述べている。

皆さんはすぐA(教科の単元)からやろうとしますが、断言します。無理です。ぜひC(教科とは別に実施)からやってください。とにかくいろいろなところでプログラミングを経験するというのは、子どもだけでなく、先生もプログラミングの活動自体を経験するということです。指導の経験もなしに、急にAやBをやるということは、ほぼ無理だと思います。 引用HP

堀田先生のご講演であるように、私も教員がプログラミングを経験することが大切であると考える。そこで、初めてプログラミングを体験する教員の方にオススメしたいのが、まず1時間プログラミングの体験をしていただくことだ。ここでは、無料で行えるビスケット(スマホ・タブレット)もしくはScratch(PC)をご紹介したい。この2つは、文部科学省の小学校プログラミング教育に関する研修教材でも取り上げられている。

ビスケットでは英語のコードも書く必要もなく、文字もない。直感的に分かるため小学生低学年からもプログラミングの体験を行うことができる。

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1時間で行えること ビスケット編
①携帯電話でビスケットアプリ(無料)をサイトからダウンロードする
ビスケットの遊び方を見ながら実際に動かしてみる

次にご紹介するScratch(スクラッチ)は、ブロックを組み合わせることで作品を作ることができる。特に小学生向けプログラミング教室の多くはScratchの学習環境を使用している場合が多い。

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1時間で行えること Scratch編
①パソコンからScratchのチュートリアルサイトへアクセスする
②『さあ、始めましょう』をクリックして動画を見ながら作ってみる

見本からはじめ慣れてきたら思いつくままに色々と試していただきたい。最後に、ご自身が熱中していた部分はどこか振り返っていただきたい。

最後に

教育心理学の観点から、内発的動機づけや自己効力感の大切さについて書いてきました。子どもたちにプログラミングの楽しさが伝わる授業を行えることを願っております。

最後まで読んでいただきありがとうございます。