「ラブレターを読む」

以下は、イベント「ラブレターを読む」で朗読されるため匿名で書いて応募した文章です。
好評を受け2回目にも読まれましたので記念に載せておこうと思います。

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こんばんは。
付き合ってください。

伊坂幸太郎の「透明ポーラーベア」という短編を知っていますか。私はそれが大好きで、何故かというとそこに登場する主人公の姉が失恋する度に遠くへ旅に出るという体質だからです。

私も実を言うとなかなかの根無し草で、生まれてから同じ地に5年以上とどまったことがありません。最初は別にそういう性質ではなかったのです。しかし人生の節目節目に色々あり、結果的に何年かに1度住むところを大きく変えないと気持ちが落ち着かないのです。習慣というのは自己のあり様を大きく変えるものです。

何が言いたいかと言うと、全部君のせいです。
小学生の時に君にフラれ、私は親に引っ越しの予定があるなら早くしてくれと懇願しました。全然知らない田舎の小学校に馴染めず私は不登校になりました。

中学生の時にまたフラれ、悲しみのあまり遠くの高校に進路を決めました。通学に3時間半かかりましたので、電車で眠ることが上手になりました。

高校生の時に再度フラれ、絶対に君が行かなそうな遠くの県の大学に進学しました。あと沖縄に行きました。国際通りを、ミミガー片手に泥酔して歩き回った時には胸が空く想いでした。北海道ではジンギスカンで同じことをしました。

大学生の時にフラれた時はさすがにどうしようかと思いましたが、ヨーロッパを数週間ウロウロすることでことなきを得ました。どこまでも続く歴史ある石畳はコンクリートに慣れきった足にきつかった。2回目はアマゾンにしました。こっちは泥の中を歩くとヒルが吸い付いてきて嫌だった記憶しかない。
3回目にフラれた時はカンボジアの市場の最奥の露店で飲んだぬるいヤシの実ジュースがわずかに発泡していて、青ざめながらお腹を抱え走った時には悲しみは消えていた。


そして社会人になった私は今、懲りずにまた告白しようとしている。

君にフラれる度私は遠い所に行って君を忘れたいのに、どうしてこういつも戻ってきてしまうんだろう。結局のところ忘れられないのか。学習能力がまるでないのか。
あるいはもう習慣のようになっていて、君にフラれたら今度はどこへ行こうかとワクワクしてるのかもしれない。心の奥底では。
次フラれたらサハラ砂漠を徒歩で縦断ぐらいしなきゃダメかも。
いや、成層圏をビキニを着て無重力周遊でもしないと忘れられないかもしれない。
それでもってテレビに出たりなんかしたら君の名前を大声で叫んでやる。

本当にそんなことになったらどうする?
私と付き合ってください。
 

P.S.もう飛行機のチケットは買いました。グリーンランドの永久凍土の上に寝転んで、シロクマといっしょに流れ星を見ます。透明ポーラーベアはとても良い作品なので是非読んでみてね。

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