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シネマクティフ東京支部の第32回東京国際映画祭ふりかえり その4

アトランティス

ronpe 「じゃあ次はけんす君、お願いします」

けん 「はい。僕が印象に残っている作品として紹介したい作品は『アトランティス』です」

ronpe 「ああー」

けん 「コンペティション部門の作品で、監督が『ザ・トライブ』という作品で撮影監督をやっている、えーと名前が…」

まる 「ふふふ」

けん 「ヴァレンチン・ヴァシャノヴィチですね」

ronpe 「ウクライナの人ですよね」

けん 「ウクライナの人です。設定的には近未来、2025年の話で、ロシアとの戦争が終わったあとのウクライナの話です」

matsu 「ふーん」

けん 「一応は戦勝国で、主人公はウクライナの兵士なんですけど、この兵士を追っていくことで戦争というものが浮かびあがってくるという」

matsu 「過去にどういうことがあったとか?」

けん 「そうですね。戦争によってこの国がどうなってしまったのか、みたいのがだんだん見えてきます。ただこの映画を観て誰もが言及するのは、まず撮影がただ事じゃなく素晴らしいってことでしょうね」

matsu 「へー」

けん 「ほとんどが長回しのワンカットで、ほとんどカメラは動かない。定点カメラでけっこう長い時間おさめているんですよ。その場面設計の計算というか、カットがはじまった時点では何を映そうとしているのかがわからないんですけど、だんだん見えてくる。これを撮るためにここにカメラがあったんだ、と。そうした長回しの中の現在進行の面白さもあるし、あとは切り取り方ですね。構成の切り取り方。それが積みあがっていく面白さもあります」

ronpe 「うん。この撮りかたはけっこう意外で、けんす君がさっきタイトルを挙げた『ザ・トライブ』という作品はかなりカメラが動くんですよ。だから僕は『アトランティス』を観たときに、カメラの動かなさがけっこう意外でしたね」

まる 「ふーん」

けん 「カメラがけっこう客観的なんですよね。場面を映すときに」

ronpe 「引きが多いし」

けん 「うん。僕はそれをQ&Aで監督に質問したんですけど、撮影に関してどういう意図をもって、またどういう撮影方法の取捨選択をしたんですか?と。回答として監督は、まずはロケーションが大事で、それを映すためにクローズアップなどではなく全体が映る構図を選びました、という話をしていました。あとこの映画に関してはドキュメンタリの手法を取り入れた、と話していて。それはその場にいる感覚を共有してほしいから、と云っていました。僕はそれをとても映画的だと思っていて、要は観ていることしかできないというのは映画の観客の視点と合うと思います。その感覚は強いですね。ただけっこう意外なところでカメラが映画的に動いたり」

ronpe 「うん。どのシーンのことを云っているかはっきりわかるね」

けん 「なんかハッとさせられる。たまに違うことが起きる。クライマックスのゆっくり寄っていくカメラも印象に残ってますね。カメラが人物の内面に入り込んでいくような。それを撮影的な手法でやって効果的だから、撮影監督としての引き出しの多さというか、映画の語り方が印象的でした。そのやり方を徹底してやっていて、レベルが高い。いい映画だなぁと思いました。コンペティションで観れて良かった作品です」

ronpe 「うんうん」

けん 「僕が一番好きなシーンは、でっかいタイヤをショベルカーで載せるシーン。なんじゃそりゃ!というやり方で。まぁこれは映画の内容と関係ないんですが(笑)。公開されたら是非そこをチェックしてください」

matsu 「公開されそうですかね?」

けん 「ちょっと難しいですかね…。でも何か賞とってましたよね?」

ronpe 「審査員特別賞ですね」

まる 「私もコンペで観た中では『アトランティス』が一番です。ダントツでこれ」

けん 「ronpeさんも感想で云ってましたけど、どう考えてももうワンテイクは撮影できないだろってシーンがあるんですよね。そんなシーンばっかり!カット数も少ないし」

ronpe 「僕が数えたのでは…」

まる 「数えた?」

ronpe 「36カットでした」

matsu 「そんなに少ないんですか?」

けん 「めずらしくカット職人的なことをやってるじゃないですか」

matsu 「下手すりゃ眠くなりそうだな…」

けん 「いやいや」

まる 「そう、大丈夫!」

けん 「フレームの中の観るべき部分が変わっていく感じも面白いんですよねぇ。フレームは変わらないのに。はい、そんな感じです」
(続く)

text by ronpe

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