アニメのノベライズという記録媒体

 最近気になっているのがアニメのノベライズだったりします。
 人気のアニメ作品を小説化するというもので、その歴史は1970年代後半に遡ります。そもそもアニメ作品はテレビまんがと呼ばれていたわけで、それを小説にしようというのは正気の沙汰ではありません。そもそも、ジュブナイル小説というジャンルが確立し、作家も育ちつつある時代です。いうならばテレビまんがを卒業した人たちの受け皿がティーン向けの小説だったわけです。ところが、ティーンに爆発的に支持されたテレビまんがの出現で状況は一変します。テレビまんがはアニメと呼ばれ、ティーンの人気を集めることに。その結果、1978年には「アニメージュ」が創刊。懐漫ブーム、SFブームと化学変化を起こし、アニメは新たなサブカルチャーとして認識され始めます。

 「宇宙戦艦ヤマト」の人気の高まりは出版にも火をつけます。朝日ソノラマと集英社がこぞって「宇宙戦艦ヤマト」のノベライズに手を出します。そしてそれはなかなかのセールスを記録。アニメブームを支えるバイプレイヤーとして、以後、期待の新作、過去の人気作が続々と小説化(ノベライズ)されていくようになります。

 このアニメのノベライズ版には大きくふたつの役割がありました。
 ひとつは作品の宣伝です。映画作品においてノベライズが発売されることはひとつの宣伝として機能していました。「スター・ウォーズ」にしても原作を持たない作品の場合、作品内容を詳しく説明することができるというメリットがあったのです。もちろん出版社にしても話題作を発売できるというメリットがあります。

 そしてもうひとつは読者にとってアニメ作品ノベライズはひとつの記録媒体であったことです。ビデオもなどの映像媒体が無かった時代において、こうしたノベライズは、作品を追体験できる数少ない媒体だったのです。その後、フィルムコミック、ドラマ編レコードという強力なライバルが登場しますが、ノベライズは圧倒的に低価格かつコンパクトだったので、その存在を脅かされることなく発展していきます。もっとも、作品内容に忠実であったかといえばなんともなモノもあるのですが。

 このアニメ作品のノベライズに積極的だったのが朝日ソノラマと集英社でした。どちらも「宇宙戦艦ヤマト」で気を吐き、自社の文庫本レーベルの一角を担うモノとして位置づけていました。集英社のコバルト文庫は元々ティーンの少女向けのレーベルで、朝日ソノラマのソノラマ文庫はジュブナイルなSFなどを中心に展開しており、どちらかといえば男の子向けともいうべきレーベルでした(多分に極論ではありますが )。

 この当時のアニメ作品のノベライズブームは、文化出版局がポケットメイトというノベライズの第一人者である若桜木虔をフューチャーしたレーベルを立ち上げるほどでした(若桜木虔に関しては別に研究を進めたいところですね)。

 そんな中発売されたのがソノラマ文庫の「機動戦士ガンダム」でした。1巻はアムロの出自が違っていたりしますが、基本的にはテレビのエピソードを上手く換骨奪胎している印象がありました。そして2巻になると、全くのオリジナル展開となり、3巻ではまさかのアムロ撃墜!(金髪さんとか御守り問題とかありますが)アニメ版の原作者とも言うべき監督の筆による物語は衝撃の連続でありました。

 西崎義展はアニメを文学に高めるために「熱血小説 宇宙戦艦ヤマト」を高垣眸に書かせたわけですが、富野由悠季は、ロボットアニメを小説として成立させるとともに、アニメ監督として手がけたものを自らの作品とすることにも成功したのです。
 これはひとつの事件といって良いかと思いますが、この当時はそのことに気がついた人は少なかったと思いとます。知恵を振り絞って生み出した作品なのに自分のものにならない。そのジレンマに悩むアニメのクリエイターたちが、小説家、漫画家となる事例は今では少なくないですが、このソノラマ文庫版「機動戦士ガンダム」が大きな突破口になったことはまちがいないでしよう。(辻真先とかも早い段階でそうした動きを見せているのですが)

 アニメ作品のノベライズという、ファーストフード的なジャンルは、ゲーム作品のノベライズを経て、やがてキャッチーなビジュアル、テンポの良い展開を抽出したライトノベルへと発展していくのですが、その話はまたの機会に。

 ノベライズの話は映画、ドラマにも広げていくのも面白いかもですね。「スター・ウォーズ」のように、それ自体がジャンルとなったものもありますし。

 個人的にはソノラマ文庫のノベライズからの脱却、角川書店のアニメ参入、ゲームブック乱立時代、ラノベからアニメ化という逆転現象など、色々と書き記して行ければと考えてます。


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