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5.1 銀行の物件評価ロジック

リートの財務部長時代に経験した融資審査で、いくつかパターンがあることが分かりました。メガバンク、地銀、信金で考え方、審査方法が異なりますが、審査パターンを覚えておくと役に立ちます。

パターン1:エリア別、総額別の評価方法

銀行の審査プロセスには二段回あります。安定性、流動性、収益性において、営業担当が支店内で土台にのるか乗らないか上司に相談することから始まります。支店内でOKが出たら、次に審査部の審査に入ります。

●都内は収益還元法、地方は積算評価というようにエリアで区別しているケース
※収益還元法は年間賃料から管理費、保険、固定資産税等の運営経費を差し引いたNOIを利回りで割り戻す評価法
※積算評価は土地評価と建物を足して再調達価格で評価する方法
●1億以下の物件は積算評価、1億以上は収益還元というように総額で区別しているケース
●賃料水準を行内評価システムで周辺相場から算出するケース

不動産取得税や登録免許税などの税金は時価ではなく評価額で計算します。不動産取得税や登録免許税などの税額の基礎となるのは、時価ではなく評価額(固定資産課税台帳に記載されている登録価格)です。ただし、新築の場合は未登録のため、法務局ごとに決められた用途・構造区分ごとの設定価格によって課税されます。ちなみに、東京法務局内の鉄筋コンクリート造の賃貸マンションの場合、評価単価は20万円/㎡程度です。

パターン2 :NCFで評価する

中古と新築の審査では、大きく異なる点が2つあります。

1つ目は、修繕費の考え方です。運営経費には管理手数料、固定資産税、光熱費の他に、修繕費がかかります。中古物件は日常生活で壊れたモノを修理する修繕費とは別に、大規模修繕費がかかります。建物および付属設備は時間の経過とともに必ず劣化していきます。数十年ほど経過すると、屋上防水、壁面クラック、エレベータ他、リノベーション工事も必要です。数百万円から1000万円単位にのぼる大規模修繕は、キャッシュフローに影響があるため、NOIではなくNCF(NetCash Flow)で評価します。

NCF=実質家賃収入-運営経費-CAPEX
CAPEX(Capital Expenditure):資本的支出、不動産の価値や耐久年数を伸ばすための経費

仮にCAPEXを見落として中古物件を買ってしまったら、一気に資金繰りが悪化します。そのため、銀行は大規模修繕コストがいつ発生するのか非常に重要視します。これが中古の評価の違いです。

もう一つの違いは、賃料の下落率と空室期間のダウンタイムです。利回り計算上は単に満室家賃を使うだけなので、どうしても人気のない地方築古物件のほうが高くなるケースが多いですが、空室率と家賃下落率まで考慮すれば、この差は一気に縮まります。たとえば、同じ1億円で利回り12%と8%の物件があったとします。地方築古物件は、人口減少が激しく、空室率20%、家賃下落率も5年後20%にも及びます。

パターン3:償却後NOI

銀行によっては、償却後NOI利回りで評価するケースがあります。NOIから減価償却を引いた数字、企業でいうとEBITDA=NOI、EBIT=償却後NOIに相当します。減価償却費はPL上では経費計上できますが、現金は使いません。この減価償却費が内部留保として貯蓄されていきます。

パターン4:ローンCAP

ローンCAPとは、借入に対する利回りです。銀行によってはローンに対するNOI利回りを算出し、万が一担保実行した場合に回収可能か判断します。メガバンクは、ローンCAPという考え方で評価するケースがあります。

パターン5:債務償還年数で回収期間検証

債務償還年数で回収期間を計算するケースです。長期ローンを融資した場合の算出式を以下に示します。

(税引前利益EBT+減価償却費)/借入額 

銀行は借主の事業計画からいつ減価償却期間が終わって、税金が発生するのか把握します。借入残高、返済方式、金利、返済期間で、財務健全性を見て回収見込みを判断します。

この中で、返済期間は、中古と新築ではその残存耐用年数の違いから、大きく異なります。つまり、中古物件の場合、残存耐用年数が短いため返済期間が延びず、返済金額が大きくなるので思ったほどキャッシュフローを残すことができないケースが多く見受けられます。

これに対して新築マンションなら通常30年~35年という長期の借入が可能となるため、毎月手にすることのできるキャッシュフローは十分大きなものとなるのです。利回り8%超の最強物件なら、返済比率は概ね45~50%程度に収まる感じです。

パターン6:自己資本比率

自己資金の資本効率を図る指標があります。物件評価に対するローンの借入

比率LTV (= 融資額 / 購入価格)

で自己資金が何割か算出します。自己資金に対して、投資回収率(Cash on Cash) といわれる指標です。企業の財務諸表分析でいうと、ROEに近いものです。

Cash on Cash(投資回収率)= EBTDA (減価償却前税引前利益)/ 自己資金

例えば、物件価格10,000万円の15% 、1,500万円を自己資金として拠出し、金利支払った後の税引前収益が375万の場合は、COCは

375万/1500万=25%

となります。言い換えると投資額に対するリターンは25%です。物件を売却した時に自己資金の増減率を図るためにエクイティマルティプルという指標で評価します。総投資額を総収入で割ったインカムゲインとキャピタルゲインの合計です。この指標がどのくらいになるかで物件の購入を決めています。物件評価額からローンや負債を差し引いた純資産は時価評価することができます。エンタープライズバリューは企業評価をする上で、時価総額に加えて、借入も資産として評価されます。

パターン7:金利ストレスで安全性の検証

安全性を図るデットサービスレシオ(DSR)といわれる指標で、賃料に対する借入負担率を算出します。これはローンの返済原資となる物件の純収益(NOI)に対して、金利や元本支払がどのくらいの負担になっているのかを判断します。投資家だけでなく、銀行も安全性を図る指標として重視しています。

Debt Service Ratio (賃料収入対利息比率)= 純収益(NOI)/ ローン支払利息    
金利負担が42.5万円の場合には、DSRは1.88になります。このDSR=1.0は、少なくとも金利負担分はカバーできている投資といえます。一般的な基準としては、DSR1.2以上が目安となります。しかし、DSRが1.0を下回っていると、物件だけの純収益だけでは金利を支払えないことを意味します。金利を支払うために物件を管理するという逆ザヤになってしまっては所有することが負担になってしまいます。さらに、金利上昇したことを想定して、支払いに耐えられるかどうかをテストします。

用語についてまとめた投稿も作ってみようと思いますので、ぜひそちらも参考にしていただければ幸いです。

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