4.3 設計プランと設計士の見分け方

1. 様々な設計士

土地は同じでも、設計士が違えば、プランは一つとして同じものはありません。プランのクオリティも千差万別です。設計士と言っても、免許があるからと言って完璧ではありません。信頼できるかといえば、そうとは限りません。運転免許と一緒で、免許を取っただけのペーパー建築士もいれば、投資家の意向を汲み取って提案してくれるプロもいます。

中でも、注意したいのは、個人事務所の建築士。特にフリーでやっている設計士です。大手事務所で働いている設計士は、複数人の目で建築プランをチェックして牽制機能が効いていますが、フリーの設計士はチェック機能が不十分なことがあります。中には間違ったままプランを出して、確認審査機関に指摘されて予定通り建てられない人もいます。設計が酷いと、施工にも影響しますし、金額にして数千万単位で影響することもあります。もちろん、竣工した後の建物管理や賃貸経営にも関わります。それくらい、設計士は重要です。
腕のいい設計士は新築を何棟もやっているので、忙しい。信頼できる設計士を見つけるのは難しい。まず、そのあたりの事情を理解していないと、土地を買ったはいいものの、ボリュームプラン通りに建てられないということになりかねません。

2. 設計士選びでの失敗

実際、私は初期の頃、設計士選びで失敗し、痛い目にあったことがありました。仲介から紹介された設計士にプランを入れてもらいました。

そのプランを見て安いと思って購入した土地は、実はプラン通りに建てられないことが判明。基本中の基本である高度斜線を見落としていたため、5F建なのに斜線のせいでエレベーターが3Fまでしか行かないことが確認申請前に発覚。基本的な法規チェックすらできていなかったのです。

その経験から、設計士選びは慎重に行っています。設計士が作成したプランを本当に信用できるか?本当に最適なプランか?企画をダブルチェックしてもらう必要ないか?など、懸念事項をリストアップして毎回、入念に確認してダブルチェックするようになりたした。

以下に、私なりの設計士の選定基準を6つあげてみました。

3. 設計士の選定基準

1) 収益化を念頭した投資家目線であること

まず、ボリュームプランを見れば、大体の実力や思考がわかります。どのくらいの容積が消化されているかだけでなく、賃貸可能面積の広さ、戸数割り、設備配置、レイアウトなど各所に実力がでます。

共用部が無駄に大きく、レンタブル比が低いプランを作るような設計士とは付き合ってはいけません。当たり前ですが、建てられない設計プランが一番困ります。よく相談あるのは、クラウドソーシングで探した個人の設計士で失敗するケースです。

2)構造計算を考慮していること

一般的に設計事務所と謳っているのは意匠設計をやる事務所です。意匠設計とは別に構造設計といって、施工できる構造を考える必要があります。

例えば、間口が狭い縦長の土地は壁式RCは、横方向の壁の量が足りるかが重要なポイントになります。また、土地面積が小さく高さが搭上型の場合、ラーメン構造で柱の位置、太さも考えなければいけません。特に構造計算までできる設計士は少なく、しっかり構造計算まで考えたプランであるかも判断基準になります。

3)投資家目線で保守的すぎないこと

逆に保守的なのも困ります。土地の形状をみれば、レンタブル比、戸数割、階数など大体予想がつくようになりましたが、投資家目線で考えてくれる設計士はなかなかいません。

例えば、斜線制限を回避して階数を最大化するための工夫がされているか。これは大手に頼んだら安心というわけではありません。法規チェックしか考えず、収益化を考えていないことが多々あるからです。

お宝案件を見逃すところだったケースを一つ紹介します。某大手仲介が持ってきた案件は、新宿駅から徒歩7分の整形地。そんな一等地にもかかわらず、積算が売値を上回っている超珍しい案件がありました。仲介が売却のためにプランを作成していることがよくあるので、そのプランをもらったのですが、そのプランを見ていくつか疑問がありました。まず、容積消化が70%程度しかされてなかったこと。プランが3階建だったこと。それをみた数々の検討者は諦めたらしいです。しかし、私の見解ではら近隣では4階建が建っているし、一階を少し下げて高さ10M以下にしたら日影制限は回避できるはず。改めて3Fにした理由を聞いたところ、確実に施工できるように保守的にしていたこと。当事者でもない彼らにとって、1階を半地下にして4層作るというようなことまで考えることはしません。リスクをとって面倒なことを考えるインセンティブがないからです。賃料収入を最大化することを念頭に置き、投資家目線で考える設計士でないと全く意味がないのです。

4) 安く、早くできること

土地案件はスピード勝負です。数週間も待たされるようでは買えません。とあるCM業を兼ねた設計事務所はコストを低くすることを売りにしていますが、ボリュームを依頼するだけで10万もかかります。買えるかどうかもわからない土地に入れるボリュームプランに費用かけるのは無駄ですし、時間もかかるため、絶対にオススメしません。

5)デザインセンスがあること

ボリュームプランにはセンスが出ます。せっかくの新築なのに、設計士にセンスがないと、古臭いデザインになったり、取り返しがつかないほどもったいない案件になります。プランが入れば何でもいいわけではなく、デザイン、間取り、レイアウトを何度も調整します。

例えば、建具はコスト面、意匠面を考えて、必要最低限にしているかどうか。手摺り一つにしても、デザイン面でシンプルかつオシャレかどうか、十分に吟味してから決定します。気に入らないデザイン案がきた時は、何度もやり直してもらいます。それを嫌がるような設計士とは、付き合いません。

6)需要を理解していること

エレベーターの設置は、あればいいとは限りません。賃貸経営や出口戦略の観点から、むしろ、無い方がいいのですが、そのあたりを理解していない設計士がいます。勝手な思い込みで、EVが無いと賃貸が付かないと言う設計士がいますが、鵜呑みにする必要はありません。EVを設置すると、6平米強の共用部が増え、レンタブル比が落ちます。さらに、設置するのに約500万、月々のEV点検費やメンテナンス費などのランニングコスト約3万ほどかかります。ファンドやリートなどに売却する以外は、EVがないことで検討対象から外れたケースはほとんど聞いたことなく、むしろ、無いことをプラスに捉える買主多いのですが、こうした事情を理解している設計士を選んでください。

4. 設計プランの精査・添削例

以下が、設計プランを精査・添削した例です。

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①高度斜線について、基本中の基本ですのでこれを始めに見落とすことはありえません。

②日影規制について当該敷地は規制がありませんが、北側(道路堺より20mを超える部分は3時間−2時間の規制範囲です。なぜ4時間−2.5時間の検討をしているのか全く理解に苦しみます。

③窓先空地及び窓先空地からの避難経路について全く考慮されていません。

④当プランでは、たまたま5階以下になったようですが建築基準法の階段の考え方を理解していないと思われます。

⑤構造計画でWRCであれば上下階の壁が通っていないのでプランが成立せず。下階に梁型が出てきて有効なプランニングができません。ラーメンであればプラン上、柱を入れる余地がありません。

⑥避難階段、主要な出入り口からの有効幅員が不足している。

⑦共同住宅と店舗が併用する場合の容対面積の算定を理解していません。したがって容積率が誤りです。

⑧採光が採れていない。採光補正係数が計算されていない。

⑨地下店舗の2方向避難やその他の単体規定が考慮されていない。

⑩B1Fのアプローチ・ドライエリアは隣地ギリギリに擁壁施工は困難なため、500以上離れていない場合に平均地盤面の高さ設定を考慮しているか。

⑪屋上の防水仕様が不明です。50のパラペットでは防水不可。

⑫住戸の間口を考慮した上で効率的な住戸内プランが可能か。


一級建築士であるにも関わらず、こんなにも見落としています。免許を持っているからといっても、実務で使えるかどうかは別の話です。

こうしたチェックやセカンドオピニオンで設計士のミスを防げます。別の視点からアイデアを取り入れることができます。

多少コストはかかるかもしれませんが、全体からしたら微々たるものです。数千万、数億の利益のために数十万をケチるのはバカらしいです。気になることがあれば、費用負担してでも第三者にダブルチェックしています。

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