壊れゆく陰キャ

 来る日も来る日もウィッグに向き合う日々。
カットの実技が始まると、いよいよ毎日深夜帯まで素振り(実際には髪を切らずに、フリでイメトレ)をするように。

 深夜帯に、一部屋だけ電気を付けてウィッグを立てておく。まあまあ怖い。途中トイレに立って戻るとドキッとする。
 ホラーとかオカルトの類はそもそもすごく苦手。
でも、ふと思う。
「呪いの人形でもいいから髪伸びてくれないかな……」
ウィッグ、当たり前だけど切ったらもう伸びない。もし、ウィッグの髪が伸びてくれたら……練習し放題。誰かいっそ私を呪ってくれ!!
電気を消した中に薄ぼんやり浮かぶウィッグに思う。上達しない焦りが、恐怖に打ち勝った瞬間だった。

 しばらくして、保育園児の娘に何か紙で切ってあげる、と言うのをやろうとした時に、ハサミがうまく使えない。
紙の向きかな?ハサミを持ったまま、紙を持ち替え……ん?何で私、ハサミを持ったままで他の事ができる???よく考えたら、それ、美容のシザーの持ち方。
じゃあ……文具バサミってどうやって持つんだっけ!?!?(プチパニック)

 追い詰められて、当たり前が壊れた日。今となっては、良い思い出……(まだまだ序の口)


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