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夢見る劇場◆たびことば

 
 天井いっぱいに書き連ねられた古めかしい家号。
 むかしむかしの物語の中にいるような、何処か懐かしいような。
 その劇場は、過去と現代の狭間の演目を観せてくれる。

 古民家とサテライトオフィスが共存する地方創生の街、徳島県神山町。
 この街の劇場、寄井座が建てられたのは実に大正の終わりだ。
 映画、芝居、人形浄瑠璃。
 賑々しい音曲が鳴り響いていた寄井座は今、静けさの中で昔の夢を見ている。
 置き忘れられた劇場の窓からは陽が差し込んで太い梁や黒々とした床板を照らし、今では様々なアーティストに創作活動や展示の場として活用されている。

 知人の案内で巡った神山町の緑は、どこまでも深い。
 都会のような一角も、濃厚な自然に溶け込んでいる。 
 夕暮れ時の鮎喰川に、ちらちらと無数の光が踊った。
 それはきっと、寄井座に蝋燭が灯されていた頃から変わらない風景。
 袖摺れのひとと歩く川辺に、古から現れた蛍が舞い踊った。




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