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お札の人 4

「その肖像、あなたじゃないですか?」
マサル氏は癪にさわるコンサル男にそう言われて、よく札を見てみた。
確かに自分の肖像がそこにあった。
何だこれと思い、ダンディ醸し出しすぎのコンサル男の脇にあるヴィトンのバックから一万円の
札束を何束も取り出して、
いちいちその肖像画を確かめていった。
一万円の肖像画全てが自分になっていた。

いったい何が起きているのか理解出来なかった。
様子を見ていた香水つけすぎだろコンサル男が、
「あっ、もしかしてマサルさん。
始まっちゃいましたか?」
何かを知っているかのような言い回しだった。
「お札に自分の肖像画きちゃいました?」
マサル氏はその言葉を聞いて、
キッと香水ベタベタコンサル男の顔を見返した。
「それね、お札の革命現象って言うんですよ」
ヘラヘラにやけてコンサル腹立つ男は続けた。
「ここにある現金だけじゃないですよ。
銀行の口座でも電子マネーでも株でも、
現金化するとその札は自分の肖像画に
なっていくんですよ」
「資産を持ち合わせている人に起こる
特有な現象なんですけどね。貯めに貯めた
資産を有効に活用しない年月が長いと、
ある時から紙幣の価値がなくなって
いっちゃうんですよ」
ダンディ醸し出しコンサル男はさらに続けた。
「かといって銀行に文句を言ってみても
まったくダメです。受け取った時は確かに
福沢さんがいるんですけどね、すぐに
使わないと、そこに自分が現れちゃうんですよ」

マサル氏の全身からじっとりと
嫌な汗が噴き出した。
そして恐る恐る聞き返した。
「これ使えるんです?」
「マサルさん、バカになっちゃいました?
そこにはあなたが写っているんですよ、
使えっこないでしょ」
「それとね、全ての取引を電子マネーでやりくりしても相手が現金を引き出したとたんに、
そこにはマサルさんの肖像画があるんですよ」
人生大成功かよほんとにコンサル男は
笑いながら答えた。
マサル氏はこの男の手玉に
取られているような気分になってきた。

「でもマサルさんならきっと大丈夫。
多くの慈善活動家がそのクリティカルパスを
トレイルしてきたんですよ」
マサルはこのダンディコンサル男が何を言ってるのか分からず、腹の底からムカついてきた。
「そのクリスタル、、、何とかって何ですか」
「クリティカルね、
クリスタルじゃなくてクリティカル」
気に障るダンディコンサル男のにやけた時に
光った白い歯を砕きたい衝動をマサルは堪えた。
「つまりねマサルさんがこれから本当の成功者になるための最後の試練ね」
「試練、、、クリスタルパス」
「だからクリティカルパス」
余裕を醸し出している
コンサル40代男は言い正した。
「どうしたら良いんでしょうか?」
マサル氏は正気を保って、聞き返した。
なんせこの男は知っているのだ。
これまでに築いた数千億にも及ぶ金の守り方を。
ツバキをごくりと飲み込んで冷静になって
「どうすれば守れるんですかね」
もう一度マサル氏は聞いた。
「使うんですよ。自分の利益にならない事に
使い切るんです。使い切った時にお金がお金に
なるんです」
人生大成功コンサルタントの40代男は
サラリと答えた。
“スカッとさわやかコカ・コーラ”
とでも言っているかのようにサラリと。

「世の中にはそのお金が無いために
困っている人や動物や環境がいくらでも
ありますからね」
「その為に使い切るのです」
満面の笑みを浮かべてコンサル男は答えた。
そして一瞬にして、
人生大成功コンサルタントのダンディで
余裕を醸し出していた40代男の風貌が変わった。

目の前にいる男はずしりと重たい物腰で、
目には力が宿り、マサル氏に一歩踏み出し、
「その為にすべての資産を私に預けてください」
その顔は仏のように冷静で平坦としていた。
マサル氏の両手の中にはマサル氏が肖像画と
なった一万円札の束があった。
その束の端からは汗が滴り、
ポタポタと何滴も床に落ちていった。
「ク、ク、ク、クリスタルパス、、、、、」
マサル氏はそう言うと、白目をむいて腰から床にどどーっと倒れこんだ。

<おしまい>
*追伸:二千文字ぐらいでまとめてみようと
書き始めたら、四千文字超えてしまい、
ショートにならなかった。すみません、、、。
マサル氏のせいです。
最後まで読んでくれた方、
ありがとうございます😊