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黎明期のPCゲーム開発記 (12)〜はじめての SFC〜

前回の「第11回」は、MSX版ソーサリアンの開発完了後のお話でした。
今回は、ソーサリアンの後のプロジェクトが始まるお話です。

1990年代前半

カオスに満ち溢れていた1980年代が終わり、1990年代に入ると一部で台頭していた PCゲームにも陰りが見え始め、ファミコンに代表されるコンシューマ向けゲーム機の復権がなされた時代のように思えます。1990年には任天堂から「スーパーファミコン」が発売され、また1994年にはソニー・コンピュータエンタテインメントから「プレイステーション」と、セガ・エンタープライゼスから「セガ・サターン」が相次いで発売されていくことになります。

私がゲーム開発の世界で最初に携わった「MSX版のソーサリアン」は、最初で最後の唯一のパソコンゲームでした。パソコンを使って色々とツール類を作っていたのが学生時代のことだったので、PCゲームの開発に携われたこと、時期的に間に合えたことは今思えば本当にラッキーでした。

そしてコンピュータの性能が著しく向上していくのもこの頃で、CPU は 8bit から 16bit / 32bit のものが普及し始め、またメモリや記憶媒体 (ハードディスクや CDドライブ) が一気に普及していったのもこの頃だったと記憶しています。ゲーム機も同様で、高機能化していくのはこの頃からです。

そんな時代の変化により、私が携わるゲームの種類も変化していきます。

謎の開発機器

前回の最後で、私の作業机の上に見慣れない開発機器が置かれていたとお話しました。それは前述の、任天堂が発売した「スーパーファミコン (以下、SFC)」の開発機材でした。私の机にそれが置かれていた頃にはすでに多くのゲームがリリースされていました。代表的なものとしては、「F-ZERO」や「スーパーマリオワールド」「ファイナルファンタジー IV」等ですが、ソフト以前に SFC の機械自体が中々手に入らないという状況が続いていましたよね? 私も SFC を手に入れるのにはすごく苦労しました。

同時に、 MSX版「Xak (サーク)」の(ソース)プログラムが入ったフロッピーディスクも机の上に置かれていました。どうやら次のプロジェクトでは、MSX版「Xak」を SFC へ移植するようです。

当然ですが、まずはスーパーファミコンの開発環境のお勉強からはじめました。CPU はファミコンに搭載されていた 6502 の上位互換である 65816。もちろん触ったことはありません。また、"スーパーファミコン・マスター・バイブル" なんていう書籍はこの世には存在するはずはないので、渡された入出力の仕様(I/O)と 65816 の命令セットと格闘する毎日でした。また、例えば MSX での開発であれば、分からないことがあれば誰かに聞くということが出来ますが、今回ばかりは「SFC の内部を知っている人」なんてものは日本中探してもそうそういるものではないのが最初から分かっている状況・・・それは学生時代のように黙々と SFC の内部への探検の日々が始まることを意味していました。

SFC版サークの開発開始に際しては、特に明確な納期は設定されていなかったと記憶しています (もしかしたら、私の記憶違いかもしれませんが)。といっても今回に関しては、はじめての CPU であり、はじめての SFC です。「いつ頃完成する?」と聞かれても、きっと答えられなかったと思います。会社の方もそれは理解してくれていたのではないでしょうか。

移植への方針決定

MSX版ソーサリアンの移植の時と同様、開発を始めるにあたって全体の方向性を決める必要があります (どうやら私は、そういう開発方法をとっていたようですね)。ソーサリアンの時もそうでしたが、元々のゲームを忠実に再現するのか、それともオリジナリティを全面に押し出すのか。。。

SFC の内部仕様の調査を調べ、なんとなく「こういうハードウェアなのか」というのが分かってきた時点で、MSX版サークの(ソース)プログラムを読み込むことにしました。読みはじめて1週間も経たないうちに方向性を決めたのをよく覚えています。それは、

完全移植を諦めて、SFC 版として作り直す

というものです。もちろんシナリオ自体は「オリジナル版」を忠実に再現しますが、ゲームシステムは完全に1から作り変えるという選択をしました。MSX版ソーサリアンとは全く逆の考え方です。

理由はいくつかありました。そのうち一番大きかったのは、MSX版サークのプログラム構造が全く SFC に適合できないというものでした。この辺りは記憶が曖昧なのでハッキリとしたことは言えませんが、(記憶が間違ってなければ)ソースコードをビルドして実行形式ファイルを作成すると、とんでもなく巨大な1つのファイルが完成する。それをマッピングしながらゲームが進んでいく?みたいな感じに読み取れたんです。これを読み解いていくくらいなら、1から作ったほうが早く開発が進んじゃないかな?と考えたんでしょうね (批判はあるかもですが、少なくとも当時の私はそう考えたようで)。

またこの時、もう1つ考えておかないといけないことがありました。当時、PC版サークは「VRシステム」というモノが搭載されていることが "ウリ" でした。一言で言えば、画面の中に2次元の世界として描かれているマップをさも3次元の中にいるように、建物の後ろにキャラクタが移動すれば、その後ろにちゃんと隠れる・・・そんなシステムだったように思います (解釈が間違っていたらごめんなさい)。

これをどうするか・・・

このシステムがあることがサークの「ウリ」である以上、SFC でもそれに対応できるような仕組みを実装する必要があるだろうと。かくして方向性としては、

・ゲームシステムは SFC 専用を作る
・シナリオはオリジナル版を忠実に再現
・奥行きや高さなどの概念も再現する (VRシステム)

というようなものになりました。あと可能であれば「剣を振るアクション」も入れたいなとこの段階では考えていました。

これらの決定を元に、SFCに特化した「Xak (サーク)」の開発が始まります。

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