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パスポートの発行手続き新制度(「2025年旅券」集中作成)と、海外在住者の立場から考える日本の信頼

パスポートの仕様が2025年3月24日から変更になる。
「旅券の偽変造対策を強化」を目的に行われるものだが、この新制度に伴い、すべての旅券は「日本国内でのみ」作成されることになる。
日本に住む人にとっては然程大きな問題ではないのかもしれないが、この「2025年旅券」新制度は、海外在住者にとっては改悪とも言える、強い懸念を抱かざるを得ない。いや、日本に住む人にとっても、海外旅行中にパスポートをなくしたら、これまでと違う手続きが裏で行われていることを知り、そこに潜在するリスクを知る上でも重要なことなのではないだろうか。

そこで、その懸念について大使館を通じて外務省担当課に問い合わせし、そのやりとりをした経緯をここに残しておこうと思う。
(メールのやり取りの転載許可について確認したが、明確な反応を得られなかった(以下2回目の回答参照)。個人の判断に委ねるということだったので、やり取りを公にすることでこの問題を広く共有し、議論の一助になると考え、個人情報などには留意しつつ、私の判断でここに記録を残す。)


背景

従来、在留邦人が日本国外でパスポートの更新が必要になった場合、各在外公館で発行・交付の手続きができ、旅券の申請から交付まで長くとも1週間程度で完了していた。パスポートの作成は各国の在外公館で行われていたため、パスポートの物理的な国際輸送は必要なかった。しかしながら、「2025年旅券」新制度により、2025年3月24日以降はパスポートの更新や再発行が必要な場合、パスポートは日本国内でのみ作成され(集中作成)、各在外公館まで配送される。交付は従来通り、申請者が各在外公館に出向き、本人確認のもと受け取る形だ。

大使館からの案内メール

「旅券の集中作成開始に関するお知らせ」

1 旅券の仕様変更と申請から交付までの必要日数の増加
(1)2025年3月24日から、旅券の偽変造対策を強化するため、人定事項ページにプラスチック基材を用いた「2025年旅券」の発給開始を予定しております。
(2)現在は、旅券の申請から交付まで約x日で行っておりますが、来年3月24日以降は、旅券が日本国内で作成され、当館まで配送されることとなるため、最短でも2週間以上の日数を要することとなります。
(3)具体的には、今後当館ホームページ等でもご案内しますが、現在と比べて旅券の発給に時間を要することになるため、この機会に、改めて、現在お持ちの旅券の有効期限が十分かご確認いただき、早めの旅券の切替申請をご検討下さい(旅券の残存有効期間が1年未満の場合に切替申請が可能です。)。
(4)なお、具体的な交付日については、申請時に予定時期(目途)をお伝えしますが、交付準備が整った段階で再度ご連絡します(窓口での書面申請の場合は電話連絡、オンライン在留届(ORRネット)でのオンライン申請の場合は登録されたメールアドレスにメールを送信します。)。

2 書面申請の場合の領事出張サービスでの旅券発給・遠隔地居住者の即日発給サービスの終了
(1)これまで、当館は、遠方にお住まいで、書面での申請を希望する邦人の方には、領事出張サービス実施日(や、当館への来館予定日)までに、旅券発給申請書を事前郵送いただき、当日にご本人が受領のために来館される前提で、同日に旅券を交付していました。
(2)一方、旅券の集中作成開始に伴い、こうした対応が困難となるため、3月24日以降、領事出張サービスや事前予約による当館来訪時の、旅券の即日発給のサービスを終了いたします。
(3)このため、遠方にお住まいの方におかれては、是非オンライン申請の利用を御検討ください。十分に時間をもってオンライン申請頂ければ、領事出張サービス時に旅券を交付することも可能ですし、来館いただくのは交付の際のみとなります。電子申請の利用方法は、下記のリンクから御確認ください。

大使館からの通知メール

集中作成に対する懸念点

  • 日本で作成・発行され、それが物理的に「郵便物」同様に国際輸送を経由して運ばれる手間と、その間のリスク増加への懸念

  • 申請してから届くまで「最短で2週間以上」。最長ならいつになる?

  • (実際、1年近く日本からの配送に困難があった最近の事実を踏まえて)コロナ禍のような状況に陥った場合、日本からの輸送が止まる懸念。

最初の問い合わせメールの送信

在xxxxx日本国大使館 ご担当者 様

いつもお世話になっております。
旅券の発行手続きが変更になる旨についてご連絡をいただきました。
この変更についていくつか懸念があり、どちらに問い合わせれば良いかご指示ください。

1)「旅券の偽変造対策を強化」を理由に日本本国での作成が必要ということですが、日本から在留国への輸送の方法とリスク管理はどうなるのでしょうか。輸送中の個人情報や国際的な信用性の担保はどのようにお考えで本変更を実施されることになったのでしょうか。
2)つい数年前のCOVIDパンデミックの状況を思い返しますと、日本から海外への輸送が困難になることも想定されます。そのような場合に海外に住む日本人として今回の変更は強い懸念を抱かざるをえません。在外公館での発給ができなくなることについて、本懸念点からの明確な対応策をご提示ください。

よろしくお願いいたします。
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---- 大使館領事職員さんが担当課である外務省領事局旅券課へ転送 ---

外務省領事局旅券課担当者からの回答

平素お世話になっております。
旅券の集中作成についてご懸念を有するとのメールを頂戴しました。

まず、旅券の集中作成は国際民間航空機関(ICAO)でも勧告されており、また、顔写真ページにプラスチック基材を用い、セキュリティを強化した旅券は既に60カ国以上で発行されています。外務省としては、こうした旅券の国際的潮流も踏まえ、日本国旅券に対する国際的な信頼を確保する必要があると考えており、そうした取組の結果として、日本旅券所持者は約190以上の国・地域で事前の査証取得を免除されていると理解しています。こうした点について、まずはご了解頂ければ幸いです。

そのうえで、ご照会の点については、
1)日本から各国への旅券の輸送は、保秘性の高い方法で行われ、例えば追跡システムを用いた配送中の貨物管理も遺漏なく進める予定です。
2)新型コロナウイルスをめぐる世界的な国際輸送の混乱の例もあり、今後も何らかの事情により、日本から海外への輸送が困難になる場合はあるかもしれません。このため、外務省としては、特に海外在留邦人の皆さまに対して、余裕を持った旅券の申請をお願いしたいと考えています(残存有効期間が1年未満になれば、切替(更新)申請が可能です。)。併せて、普段から旅券を無くさないよう注意を払って頂きたく存じます。こうした点につき、各種媒体を通じた広報活動に注力することが重要と認識しています。

外務省としては、今回の制度変更により、在留邦人の皆様にご不便をおかけしないよう精一杯取り組んでまいりますので、何卒ご理解のほどよろしくお願い申し上げます。
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回答に対して、大使館を通じて再度問い合わせ

ご回答ありがとうございます。

以下、外務省ご担当者の方に対しての返答・コメントです。
誠にお手間をおかけしますが、再度お繋ぎいただけますでしょうか。

旅券自体のセキュリティ・偽変造対策の強化が必要な点は理解します。一方で、日本での集中作成後、国際輸送を使うことにより起こりうるリスクの増大については強い懸念を持ちます。日本国旅券は国際的に高い信頼性があることを了解しています。その高い信頼性があるがために、海外において日本国旅券が盗難やスキミングなど不正使用、犯罪のターゲットになりやすいことを理解していただいているのか、正直なところ今回の回答によって不安が増しています。

日本ではオンラインや郵送による申請はできても、受け取りは代理での受け取りは一切認められておらず、必ず窓口で本人確認のもと受け取りすることが必須であると理解しています。このような対応になっているのは旅券がいかに重要な書類であるかを如実に表しています。「追跡システムを用いた配送中の貨物管理」で十分なのであれば、日本国内でも配送受取が可能ということになりますが、そうなっていないのは信用性を担保するためなのではないでしょうか。旅券が手元にあるのであれば「旅券を無くさないよう注意を払」うこともできますが、旅券の国際輸送の最中に、旅券やその情報を通じて在留邦人が国際的な犯罪に巻き込まれた場合、どのような対応をしてもらえるのでしょうか。そのような点から、今回の新制度によって偽変造対策の強化はできても、旅券のセキュリティという意味ではむしろ改悪と言えるのではないかと考えます。技術的な点から日本での集中作成が必要なことは理解できますが、今回の新制度の運用は海外在住者への配慮に欠けているように感じます。海外に拠点を持つ者にとって、パスポートの不正使用のリスクの増大、犯罪への荷担のリスクは、生活のリスクの増大に直結します。とりあえずやってみました、やっぱり危ないね、では済まない問題であり、真摯にこの懸念に向き合っていただきたいと思います。

外務省の皆様、大使館の皆様にはわれわれ在留邦人のために常日頃からご尽力いただいていること、心から感謝致しております。
しかしながら、今回の新制度の決定と運用に関しては未だ強い懸念が拭いきれません。

この問題を広く議論するために、SNS等にて発信すべきと考えていますが、今回のやりとりを転載することを許可いただけますでしょうか。

よろしくお願いいたします。
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外務省領事局旅券課担当者からの2度目の回答

ご返信ありがとうございます。
旅券の国際輸送に際して不正使用や犯罪への加担のリスクがあるとのご指摘を頂きましたが、先日ご説明のとおり、既に多くの国でプラスチック基材を用いた旅券の集中作成が行われており、海外への輸送も行われています。
ご指摘も踏まえ、保秘や貨物管理に十二分に配慮しながら、ご懸念を払拭するよう取り組んで参ります。

なお、貴方SNSでの発信については個人の意思によるものなので、当方からのコメントは控えます。
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とりあえずの結論

ということで、埒が明かないので、とりあえず対応していただいた大使館職員さんに一言お礼のメールだけして終わり。

まぁ、お役所の対応ってこんなもんなんだろうけど、

「他の国がやっているから、うちもやります」

という言葉に私の懸念を払拭するだけの説得力は到底ないように思われる。
正直なところ、返答をもらうたびに不安は増すばかりで、パスポートの不正使用は日本国外に住む私を含め家族全員の生活拠点を失いかねないことなので、どうにも放っておくことができない。

次の手を考えているところだが、この不安やモヤモヤした気持ちがどこからくるのか、ずっと考えていたら、一つの結論に結びついた。
それは、結局のところ
私が「日本政府を信用していない」ということから起因しているようだ。

返事があるだけ誠意があるということなのだろうが、信用はできないから不安が増す。今住んでいる国へ同じ問い合わせをしたらどう感じるだろうか。
国への信用って大事だな、と感じる。一朝一夕で作られるものではないだけに、今回の件で、日本への対応を期待することへの諦めの念と同時に、自分が抱いている日本への不信に改めて気付けて妙に納得。
こういうものは、事件が起こらないとその問題に気づかないものなのかな。

とはいえ、ひとごとでは済まされない問題なので、次の手を考えます。

この問題についての考え、解決には行かずとも、国や担当部署と懸念を共有できる何か良いアイディアがあればコメントください。

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