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「美女」

松嶋菜々子は おエライさんたちのプレゼンにカバン持ちでやってきた
プレゼンの間 外で時間つぶし
エラくなったら こんなイイ女がそばにいて仕事をサポートしてくれる―
日頃 低学歴のおエライさんたちを見下しているぼくも
その地位に就くことがうらやましく思える

さっきすれ違ったおエライさんたち
かなり緊張した顔つきでプレゼン会場に入っていった
菜々子は所在なげに喫茶店で時間つぶし
いつもはおエライさんたちの側に侍るようにしている彼女を
ぼくは 遠くから見つめるしかない
この日はなぜか
向き合いながら お茶をすする

ぼくは 菜々子の暇つぶしの相手
その顔も 手も足も スタイルも
すべてが美しい
当たり前だ 松嶋菜々子なんだから
美女としての美女 美女の中の美女 美女であるための美女
この世に出てきて そうやって存在してきた彼女
ぼくは 今向き合っている
何ものでもない ぼく
しかし ぼくは彼女の暇つぶし相手くらいにはなれる 同僚だから
すべてが美しい彼女の
顔 手 足を見てしまう
じろじろ 見ているかもしれない
見られること 見せることが 彼女にとっての生き方そのもの
だから 視線を浴びてもまったく動じない
いやらしい下心を受け止めも来ただろう
それが 彼女の今の立場にもつながってきたろう
見ること 見られること
陽と陰 凸と凹
それらが合致する場を作り出してきた
今 ぼくはその場近くにはいるのだけれど
深く強く 彼女と結びつきあっているわけでなく
ぼくが 彼女を求めたとして
彼女は「メリット」のない相手に
合致など させようはずもない

すべてが美しい
その存在の前で
ぼくは虚しい空気

虚ろな時の中にいる

松嶋菜々子は目で何かを言おうとしている
しかし 声は発しない
ぼくは暇つぶしの相手をしているだけ
上滑りする言葉のやりとりが 暇つぶしの相手には適う

時間が来た
頬を紅潮させた低学歴のおエライさんがプレゼン会場から一斉に出てきた
菜々子は
目に光を宿し 席を立った

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