「柱のかげのブラザー」

男が　若い男が駅の人込みの中
柱のかげで身をかがませている
靴ひもを結びなおしている
男の
長く伸びた靴のつま先の上に
ちょん　と
ひとつのスマホが乗っている

スマホは薄暗い柱のかげで
鈍い光を放っている
靴ひもを結びなおす姿勢をとりながら
男はその実
光を放つ
スマホをじっと見つめている

そこに映し出されているのは
彼女とのＬＩＮＥのやり取りや
不倫を糾弾するネットの書き込みやらではなく
世界の重要な
極めて重要な
情報なのではないか

そう、そうに違いない！

スマホはただ単に情報を映し出す
スクリーンではなく
男が
世界を操作するための
ツールなのではないか

世界の隅々と
私の心の中までを
手に取るように
のぞきこみ
スマホを通して
その男は指示を出しているに違いない！！

私はだまって
そーっと
そーっと
男の脇を通り過ぎる