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■早まってはいけない

「詩集」を読んで (25) 不定期刊

※Xに投稿済※

都内でも屈指の進学校「武蔵中学高校」の中学生時代にいじめ体験があり、そこから脱しきれず、一種落伍した人生を送る中、短歌の世界で見いだされたのに、自死した若き歌人。
その処女歌集であり、遺作集となった本である。

◇萩原慎一郎 「滑走路 -歌集-」 KADOKAWA 2017年12月刊

内容

非正規の友よ、負けるな ぼくはただ書類の整理ばかりしている 僕は歌う。誰からも否定できない生き様を提示するために-。32歳、若き歌人が遺した至極の295首を収めた第1歌集。

(図書館データ)

ぼくの感想

Wikipediaの作者の項目にかなり詳しいことが書かれている。
そこでも取り上げられている歌を読み、歌集全体はどうなのだろう、と思って歌集を図書館で借りて読んだ。
その歌――
「屑籠に入れられていし鞄があればすぐにわかりき僕のものだと」
この歌集には含まれていなかった。

筆者の少年時代のいじめ体験や屈折が反映された歌はあまりなく、その後青年になってから、「非正規雇用」の世界で働く、寄る辺なさをつづる歌が多い。

これからというときに、どういう形で死を選んだのか。
歌集には作者の両親の言葉も寄せられているが、そこではまったく事情は触れられていない。

自分の人生を何とかしよう、それこそ滑走路から離陸したいと思っていたはずなのに。
歌、創作が彼自身を浮揚させ、その後生きることにつながらなかったというのは、文学創造の無力ではないか。

いや、人の心は本人にしかわからない。
成功の入り口、将来に光が見えたはずなのに、結果的には彼にとってそうではなかった――。

小さな歌集を読んで、共感するとともに、歌作りが彼にとって命をつなぐ行為につながらなかった寂しさを抱く。

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