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■みなさんうまい「小説」を書かれる

現代散文自由詩人の独り言(80)

◇久保りこ「爆弾犯と殺人犯の物語」を読んで

双葉社刊、2022年9月初版。

内容
爆弾犯の夫と、殺人犯の妻。秘密を抱えたふたりの、不思議な愛の行方は…。第43回小説推理新人賞を受賞した表題作をはじめ、「僕には印がついている」など、短編5編を収録。『小説推理』掲載に書き下ろしを加え単行本化。

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新聞の書評を読んで気になり、図書館で借りたものを読む。心にひっかかる小説だった。
文芸本の出版社としては、新潮、文春、講談社あたりからずっと落ちる双葉社から出ている小説だが、なかなかセンスのいい小説だと思う。
「小説推理」なんていう文芸誌があったのか? と思いたくなるほどマイナーな雑誌でデビューした久保りこなる作家。検索してもインタビュー、ご本人の顔写真も見つからず、素性がはっきりしない作家だ。

掲載されている短編5編がいずれも微妙につながっており、おもしろい展開で飽きさせず、最後まで読めた。

表題作がすべての始まりを示しているのだが、巧妙でありながら詩的な内容で、ミステリーとして読む作品ではない。しかし、Amazonのレビューで☆ひとつを付けている人が「 罪悪感がまるでない主人公に違和感と不快感」→「この主人公には苛々させられっぱなしで、こうも魅力のない男の話がなぜに評価が高いのか理解に苦しむ」と書いている人がいて笑ってしまった。
そうとしか小説を読めない人もこの世にいるのだ、と。

確かに、ミステリー、サスペンス小説としてとらえ、犯人探し、事件の背景は――などという興味で読みたい人には不思議な理解しがたい小説なのかもしれない。
密かに爆弾作りをしていた男が登場するなんていう設定は、安倍元首相を殺害した事件よりずっと前に作者が書いていたというのは、将来を予感させそうな題材を選んでいて、時代の先を見ていたのか、と思うほど。

先に感想を書いた「レペゼン母」の次に読んだ小説なのだが、傾向は違うものの、どちらも関西に在住しているらしい女性作家が書いている面白い小説――という共通点がある。

いろんな書き手が、続々と登場してきて、詩なんていうものはますます肩身が狭いような気がする。
ストレートに刺激を受けるのではないが、こうした面白い小説から詩作のヒントになるようなものを感じられるから、小説を読む必要性を感じるのだ。

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