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「バスを待つ」

老いた女が
道端にしゃがみ
やせた脚を広げ
ゆでたトウモロコシを食べている
一本丸のままのそれを
両手で ハモニカでも吹くように
かぶりつく
歯はたっしゃなのだろうか
昼の替わりか おやつなのか
ぼくは
いつ来るかも知れぬバスを待つ
離れたところから
女の食べる姿をぼんやりと見る
バスは1時間に1本 あるやなし
まだ来ない
きっともう来ない
きょうのバスは もう終わったのかもしれない
いや
最初からバスなんてない
ここは かつてバス停があっただけの場
女は 音の立たないハモニカを吹き続ける
ぼくは
ひとりだけの聴き手として
スポットライトがあたる女を
見続ける
女が 左手をトウモロコシから外し
右手でそれを垂直に立て
眺めまわす
今一度 トウモロコシを持ち替え
最後の一口を食べ終える
芯だけになった
音のたたない
ハモニカを
女は ポーンと後ろに放り捨てた
砂地の畑の上に
転がるそれが
ぼくにも見えた
女は
振り向きもせず よろよろと立ち
ぼくの視界から消えた
まだ バスは来ない
頭の上がひたすら熱い

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