「命のにおい」

くさい　クサイ
くさいのです

見れば
薄オレンジ色の
イチョウの実が
ギンナンが
たくさんたくさん
地面に落ちています
でも
誰も見向きもしないようで
たくさんたくさん
たくさんの
命が転がり落ちていて
それを
誰も拾おうともせず
手間をかけて
食べようという
そんな人など
いないのです
そこには
無数のエネルギーを秘めた
命が
一つひとつの実が
落ちているのです

イチョウは
東京都の「木」でしょう
あちらこちらに
街路樹としてあり
その周りでは
以前は実を拾う人もいた
そんな記憶があるのだけれど

老人や幼い子を連れた母親らが
楽し気に
イチョウの木の下で
命を拾い集める
それに手をかけて
口にしようとしていた

そんな景色を久しく見ません

東京からは
そんな景色は消えたのでしょうか

自転車の太いタイヤが
パチッ　パチッ
音を立てて
ギンナンを
押しつぶします

そう思うぼく自身
実を拾おうとはしません

くさいから――
そうなのでしょう　きっと