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本屋とカフェとクリニック

子どものころから本屋が大好きだ。

町に一つしかない本屋は薬局と一緒になっていて、そんなに広くはないけれど子どもが月に一回買いに来るには十分の広さだった。
そこで毎月月刊のマンガ雑誌を買ってもらい、楽しみに持ち帰って読む。
文庫やコミックのコーナーもあったと思うが、中学生の小遣いでは買えなかったので立ち読みで済ませていたと思う。

何になりたかったかといえば本屋か電気屋で、本屋になれば発売日前にマンガが読めるし、電気屋は好きなラジカセやコンポが使えるんじゃないかという考えがあった。野球選手やサッカー選手、ましてや医者になろうなんて考えたこともなかった。

高校で少し大きい町に出ると、参考書や受験対策のために本屋に通い詰める。とりあえず毎日眺めるだけだったが、小さな町にはない品揃えでビル 全部が本屋というすごい場所だった。しかしそれ以外に学生が自転車で行ける範囲にライバルは見当たらず、その本屋が世界のすべてになった。

大学に行くと、逆に少し田舎に思える県庁所在地で本屋に行くのは大学の売店だけになった。車が必要になり、町の外れの大型書店にも行くことができたが、そこにはもう欲しい本がなかった。二十歳ぐらいはそれほど本に執着がなくなる世代かもしれない。

東京は何でもある。池袋や新宿にはたくさん本屋があってなんといっても古本の聖地神保町が存在する。お茶の水界隈も含め新刊書店も充実しているので何か欲しい本があれば最初に買いに行くことにしている。

それはそうなのだが、このあたり荒川の尾久、田端には本屋がほとんどない。町屋のTSUTAYAがなくなり、ついに田端駅からも撤退してしまった。好きな日暮里のパン屋の本屋と少し足を伸ばせば品揃えが完璧な往来堂書店があることはあるが、あとは王子ブックスまで行くしかない。

本屋にはふらりと行きたい。暇な日曜にぶらぶらと歩いてたどり着きたい。ついでにお茶して帰るぐらいのものだから、近所にいいカフェか喫茶店も欲しい。

そしてできたら入りやすい条件が整っていて欲しい。適度に放っておいてくれる店主、多くもなく少なくもない客数、本のセレクトが素晴らしく、おいしいデザートが揃っていてコーヒーが美味しい。耳に優しい音楽が静かにかかっているような。

これはクリニックにも通じる。気にしていないようでよく見ている受付、テレビの音がしない待合室、少し本が置いてあって、アート作品が飾られ音楽が心地よく流れている。雑然とした救急然とした病院もそれはそれで好きだけど。

西尾久は落ち着いた町だけれど、落ち着いてお茶できる場所と本屋がない。これがあったら生活の質が上がるのになと思っている。できることなら、まる福の2階に本とコーヒーマシーンを置いてみたい。クリニックの上にカフェがあったら。それはそれは楽しいだろうなあと一医者として思うのです。

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