『カモン カモン』は宝物のように美しく優しい映画（食事シーンも愛おしい）

楽しみにしていた、マイク・ミルズ監督『カモン カモン』を観に行きました。勝手にすごく期待をしていたのですが、それを超えるくらいとても良い作品でした。
自分の「人生ベスト映画ランキング」は、その時の気分で変動したりするのですが、人生の中で躓いたり、傷ついたり、疲れた時には、きっとこの映画を思い出す、そんな大切な一本になったと思います。

モノクロの世界は面白い

今年に入って『エル プラネタ』『ベルファスト』『パリ13区』『カモン カモン』とモノクロ作品が続いており、よい流れだなぁと思っています。『フレンチディスパッチ』もモノクロシーンがありましたね。
カラー作品でも映画によって色味が異なるように、モノクロでも光の描き方や、黒の出し方に個性があって見比べると楽しいです。

『カモン カモン』の撮影は、ロビー・ライアンというアイルランドの撮影監督です。『天使の分け前』や『わたしは、ダニエル・ブレイク』などのケン・ローチ監督作品をよく担当している方でした。

ミルズ監督はパンフレットの中で、モノクロにした背景として「寓話的」という話をしていました。たしかにモノクロ映画の中で観ると、アメリカであろうとパリであろうと、場所や時代を限定しない、自由な見方ができるような気がします。

同じタイミングで鑑賞した『パリ13区』もモノクロ作品でしたが、個人的に『カモン カモン』よりパキッと黒が出ていて、スタリッシュさを感じました。（『パリ13区』のジャック・オーディアール監督は「生々しさを出した」とパンフレットに書いてありました）

こちらは『パリ13区』映像で観ると黒の感じが違って面白い

パンフレットはどちらも大島依提亜さんデザイン

子供たちの言葉は美しく、温かい

本作ではホアキン・フェニックス演じるジョニーが、ラジオジャーナリストとして各地の子供たちにインタビューするシーンが多々登場します。
デトロイト、 NY、ニューオリンズと環境が異なる子供たちですが、みんな自分の気持ちに正直で驚きます。質問に対して答えるだけではなく、分からない・答えたくないという自分の気持ちを、自分自身でわかっていること。
わたしは彼らのインタビューを聞いているうちに気づいたらずっと泣いていました。

そして子育てをしたことがないジョニーが、少しずつ甥っ子ジェシーとの関係を築いていく様子は、同じくほぼ子供と触れ合ったことがないわたしに新しい視点を教えてくれました。
笑ったり泣いたり、意味不明なことを永遠と話し続けたり、夜寝れないくらい興奮したり、拗ねたりする9歳の子供を1人の人間として接すること。自分と違う考えを持つ人間に好奇心を持ち、理解することの大切さ。

ジョニーとジェシーの関係が構築されていく様子を観ていることは楽しかったのですが、わたしはジョニーとヴィヴの兄妹の関係が再生されていく様子も感動しました。特に映画後半、ジェシーを通して知らなかった妹の姿を教えてもらうシーンが大好きでした。ここでも「対話」の大切さを教えてもらった気がします。

▼▼『カモン カモン』に登場するごはん▼▼

本作は家族や仲間たちと一緒に食卓を囲むシーンが多数、描かれており楽しかったです。以下、箇条書きでメモしていきます✍️

・冒頭、ジョニーが BOXに入った何かをホテルで食べてる。

・ジョニーとジェシー、ラジオ取材の仲間たちと、NYのレストランでパスタらしきものを食べる。ジェシーは途中でアイスを食べてしまい「ブロッコリーも食べて」と注意される。ジェシーのふわふわの髪の毛が揺れて可愛かった。

・ジョニーは、ジェシーの母親ヴィヴに「サラミやチーズの悪趣味のパンを買って食べさせて」と教えてもらう。

・ジョニーとジェシーがピザ屋に行く。カウンターでピザを食べながらジェシーがインタビューしますが、核心にせまった質問をジョニーは答えずはぐらかしてしまう。大人のよくないところだなぁ。

ぺらぺら、ぺらっぺら

・ジェシーを通して知らなかった妹の姿を教えてもらうシーンがすごく良かったと書いたのですが、そこでこっそり登場するエピソードが、お母さんはストレス溜まった時に大きなステーキを食べること。なんて愛のある描写なんだろう。ミルズ監督が日常を大切に愛おしんでいることがよく分かります。

きっと歳を重ねて改めて観ると、また違った感想を持つ作品だと思います。可愛いクッキー缶に愛すべき雑貨と一緒に入れて眺めていたい、そんな大切な宝物のような映画になりました。

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