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ハリコフ攻防戦のウクライナの勝利 要約

ウクライナの勝利にもかかわらず、なぜロシアが勝利するのか。


2022 年 9 月 12 日
By Scott Ritter
(Consortium News より)

スコット•リッター
元国連大量破壊兵器廃棄特別委員会主任査察官
元米海兵隊情報将校
・旧ソ連で軍備管理条約の実施
・ペルシャ湾での砂漠の嵐作戦
・イラクでの大量破壊兵器の軍縮を監督した。
・旧ソ連で軍備管理条約を実施し、砂漠の嵐作戦ではペルシャ湾に、イラクでは大量破壊兵器の軍縮を監督した。
・近著に「ペレストロイカ時代の軍縮」(クラリティ出版)がある。

要約

現在ロシアは、NATO の装備のウクライナ軍ではなく、ウクライナ人が配備した NATO 軍と戦っている。
しかし、ロシアはハルキウの失敗にもかかわらず、依然として優勢を保っている。

Ukrain

2022 年 9 月 1 日
ウクライナ軍は、ケルソン(南部の都市)の北部に展開するロシア軍に対して、大規模な攻勢を開始した。
10 日後、ウクライナ軍は攻撃の範囲と規模を拡大し、ハリコフ(北部の都市)の周辺地域にも進出した。
ケルソン攻防戦はロシア軍に撃退され、ウクライナ軍は人的・物的損失が大きかったが、ハリコフ攻防戦はロシア軍に占領されていた数 1000 ㎢ をウクライナ政府の支配下に取り戻し、大成功を収めた。

ロシア国防省は、このハリコフ攻防戦に対して、反撃することなく、テレグラムで衝撃的な発表を行った。
「ドンバス解放のための特別軍事作戦の目標を達成するために、ロシア軍はドネツク方面への取り組みを強化するための軍の再編成を決定した」と。

ロシア国防省は、
「この目的のために、3 日以内に、ドネツク人民共和国の領土への(ロシア)軍の移動を抑制し、組織化する作戦が実施された」と宣言した。

この作戦の間、部隊の実際の軍事行動に見せかけた、数々の撹乱や威嚇行動が行われ、その結果、2000 人以上のウクライナ人と外国人戦闘員が殲滅され、100 台以上の装甲車と大砲が破壊された と発表している。
不滅のヨギ・ベラの言葉を借りれば、「デジャ・ヴの再来」だ。

※ヨギ・ベラ:
伝説の野球選手。元ニューヨーク・ヤンキース。10 度の世界一を経験し、MVP を 3 度受賞。オールスターにも 15 度出場。
背番号 8 は名門ヤンキースの永久欠番。名言を多々残している。

戦争の局面

キエフの通信アンテナに対するロシアの砲撃(2022 年 3 月 1 日)。(ウクライナ内務省/ウィキメディア・コモンズ)

2022 年 3 月 25 日
セルゲイ・ルドスコイ大佐(ロシア連邦軍参謀本部主要作戦本部長)は
ブリーフィング(簡単な報告・共有)で、「特別軍事作戦(SMO)」の第 1 段階の終了を発表した。

2022 年 2 月 24 日に始まったこの作戦の目的は、軍事インフラ、装備、人員に損害を与えることで、キエフ近郊にウクライナ軍を釘付けにして、
ドンバス地方に展開するウクライナ軍への大幅な増援を阻止することだった。

更に、ルドスコイ氏は、
「ロシア軍はキエフ近郊から撤退し、ドンバスの完全な解放という主要課題に集中できるよう、再編成を行う」と発表した。
そして、第 2 段階が始まった。

2022 年 5 月 30 日、私(スコット・リッター)は、
第 3 段階の必要性について、コンソーシアム・ニュース(元のnews)に記事を掲載した。
私の指摘は下記だ。

「ロシアの作戦は、第 1 段階も第 2 段階も、
ウクライナ東部の軍事力増強によって、ルガンスクとドネツクにもたらされる脅威を排除するために軍事的必要なものだった。
近いうちに、ロシアはドンバスのウクライナ軍を撃破したと発表するだろう。そうすれば、ロシアに作戦を行う法的正当性を与えた差し迫った脅威という概念もなくなるだろう」と。

そのような結果になれば、
「ロシアには、非武装化、非軍事化、ウクライナの永世中立、ロシアが 2021 年 12 月の条約提案で描いた新しい欧州安全保障枠組みへの NATO の同意など、多くの未達成の政治目標が残されることになる」
と私は書いた。

「もしロシアが第 2 段階で軍事作戦を停止するとしたら、それは政治的勝利をウクライナに譲り渡すことになる。ウクライナは負けないことで『勝利』する」
と私は宣言した。

この考え方の前提には、
「以前は、ウクライナ軍がドンバス地域を奪還するのに十分な戦闘力を持っており、差し迫った脅威が存在し続けたが、その当時は、脅威は無くなっていた」
と私は考えた。

つまり、ロシアが第 3 段階に進出する原動力は、
第 2 段階のドンバス解放というミッションを終えた後に生まれると私は考えていたのだ。

「ウクライナは、NATO から大量の軍事支援を受けたとしても、ロシアによるドンバス制圧を脅かすような状況には二度とならないだろう」
と私は言った。
【私は間違っていた】

アン・アップルバウム(アトランティック誌の新保守主義者の記者)氏は
最近、イエベン・モイシウク中将(ウクライナ軍の副司令官)に、
ウクライナの攻撃作戦の成功についてインタビューしている。
「本当に驚かされるたのは、ロシア軍が反撃してこないことだ 」
とモイシウク氏は語った。

アップルバウム氏は、
この将軍の言葉に脚色を加えた。
「戦うか逃げるかの選択を迫られたロシア兵は、多くの場合彼らは全力で逃げているようだ」と。

アップルバウム氏は、
戦場でのウクライナの成功は新しい現実を作り出し、ウクライナ人は「この戦争に勝つことができる」、そうすれば「プーチン政権の終焉をもたらす」と結論付けている。

私は、彼女ほどは、間違ってはいなかった。

ソ連と NATO の(外交・軍事の)基本原則

ウクライナ軍に爆撃されたロシア軍車両(2022 年 3 月 8 日)。(ウクライナ内務省/ウィキメディア・コモンズ)

戦争は複雑なビジネスだ。
アップルバウム氏はこのことを知らないようだ。

ウクライナ軍もロシア軍も、有能な戦士を生み出すための制度に支えられた、大規模で専門的な組織だ。
両軍とも、よく統率され、よく装備され、与えられた任務を遂行するために十分な備えがある。
ヨーロッパで最も大きな軍事組織の 1 つでもある。

更に、ロシア軍には、軍事術の幅広い訓練を受けた最高レベルの将校が配属されている。彼らは、戦略、作戦、戦術の専門家だ。
彼らは自分たちの仕事を理解している。

一方、ウクライナ軍は 2014 年以降、ソ連時代のドクトリンから NATO のドクトリンと方法論を取り入れたハイブリッドな軍隊に激変している。
この変革は、ロシアの侵攻以来、劇的に加速され、ウクライナ軍は事実上、
旧ソ連時代の重装備から、
数 10 億ドルの装備と訓練を提供する NATO 諸国の組織と装備を
より忠実に反映した装備な軍隊に移行している。

ウクライナ人は、ロシア人と同様に、戦場の現実に適応する必要性に長けた軍事の専門家だ。

しかし、ウクライナ軍の経験は、
ソ連時代と現代の NATO という2 つの異質な戦争へのアプローチを、
戦争の最中に融合しようとしたため、複雑になっている。
この複雑さが、戦場でのミスを生み、しばしば大きな死傷者を生む。

ロシアはウクライナに進行してからの 6 カ月間に、3 つの異なるスタイルの戦争を戦ってきた。

① ロシアの作戦の第1段階

軍事的・政治的に戦場を形成するために
可能な限り多くの領土を確保することを目的とした「作戦戦争」である。

この「作戦戦争」は約 20 万人のロシア軍と連合軍で行われ、
最大 60 万人の予備兵に支えられた約 26 万人の現役のウクライナ軍に立ち向かった。

ロシア軍は、スピード、奇襲、大胆さを駆使してウクライナの数的優位を最小化し、その過程でウクライナの急速な政治的崩壊を図り、ロシア軍とウクライナ軍との大規模な戦闘を回避しようとした。

この計画は一部の地域(例えば南部のケルソン周辺)では成功し、ウクライナ軍を所定の位置に固定し、重要な作戦地域からの増援をさせないことになった。

しかし、この戦略は失敗した。

ウクライナ軍は崩壊せず、むしろ結束したため、以後長く厳しい戦いが続くことになった。

② ロシアの作戦の第2段階

ロシア軍はドンバスの解放に集中するために再編成された。
ロシアは作戦方法を変更し、火力の優位を生かして、広範な防衛網に潜むウクライナ軍に対してじっくりと前進し、その結果、ロシアの死傷者 1 人に対してウクライナ人が 10 人以上という前代未聞の犠牲者比率を達成した。

ロシアがウクライナ軍の陣地に対してゆっくりと前進している間、
米国と NATO はウクライナに数 10 億ドルの軍備を提供し、
その中には装甲師団数個分(戦車、装甲戦闘車、大砲、支援車両)の装備と
ウクライナ国外の軍施設での大規模な運用訓練が含まれていた。

つまり、ロシアが戦場でウクライナ軍を壊滅に集中している間に、
ウクライナは破壊された部隊に代わって、装備、訓練、統率が極めて充実した新しい部隊の編成に注力していたのである。

第二次世界大戦では、ロシアがウクライナの旧軍を壊滅させた。
その代わりにロシアが直面したのは、NATO の訓練を受けて再建された軍隊の支援を受け、動員された領土と国の部隊であった。
しかし、NATO の訓練を受けた部隊の大部分は予備軍として保持されていた。

ロシアの作戦の第3段階:NATO 対ロシア

日曜日にハリコフから撤退したロシア軍。(ロシア国防省)

以上が、現在の戦闘に投入されたロシアの部隊である。ロシアは、NATO との本格的な代理戦争に巻き込まれた。

ロシアは、
NATO によって物流面で支えられ、
NATO によって訓練され、
NATO の情報を提供され、
NATO の軍事プランナーと調和して働く
NATO スタイルの
ウクライナ軍に直面していることに気がついた。

このことが意味するのは、
現在のウクライナの反攻は、第 2 段階の戦闘の延長としてではない。
ウクライナとロシアの紛争ではなく、NATO とロシアの紛争である
新しい第 3 段階の開始と見なすべきだということである。

ウクライナの戦闘計画には、「メイド・イン・ブリュッセル(ベルギー)」の刻印がある。
部隊の構成は、攻撃のタイミングや方向性と同じく、NATO によって決定されている。
NATO の情報機関は、ロシアの防衛の継ぎ目を注意深く見つけ出した。
重要な指揮統制、兵站、予備兵力の集中場所を特定し、NATO が作成した射撃統制計画に基づいてウクライナ砲兵は標的に攻撃を行った。

要するに、ロシアがケルソンとハリコフ周辺で直面したウクライナ軍は、それまで直面していたどのウクライナ軍とも違っていたのである。
ロシアはもはや、NATO が装備したウクライナ軍ではなく、ウクライナ人が配備した NATO 軍と戦っていた。

ウクライナは数 10 億ドルの軍事支援を受け続け、現在、数万人の兵士が NATO 諸国で大規模な訓練を受けている。

ウクライナが戦意喪失して滅ぶか、
NATO がウクライナ軍への支援を続ける能力を失うか、
ロシアがウクライナで戦う意志を失うまで、
第 4 段階、第 5 段階と必要なだけ段階を踏むことになる。

5 月に私は、米国がウクライナに数 10 億ドルの軍事支援を行うことを決定したことを「ゲーム・チェンジャー」と呼んだが、
今回のウクライナ反撃が正にその「ゲーム・チェンジャー」の結果である。

大規模なインテリジェンスの失敗

ロシア軍情報部(GRU)本部、モスクワ。(Hagidza/Wikimedia Commons)

今日、私たちがウクライナで目撃しているのは、この資金がいかにゲームを変えたかということだ。
その結果、ウクライナ軍とロシア軍の死者が増え、民間人の死者が増え、装備の破壊が進んでいる。

ロシアが勝利するためには、ウクライナの攻勢に成功するまでの多くの失敗を明らかにし、それに応じて適応することが必要だ。

何よりもまず、ハリコフ周辺でのウクライナ軍の攻勢の原因は、
1973 年の
ヨム・キプール戦争(第四次中東戦争)の発端となった
スエズ運河でのエジプト軍の襲撃をイスラエル軍が予測できなかった時以来の、プロフェッショナルの軍による最も深刻な諜報活動の失敗だ。

ウクライナ側は何週間も前から、ケルソン地方で攻勢をかける意思を表明していた。
ウクライナがケルソン線に攻撃を開始したとき、ロシアはこれを待望の攻勢と見なし、この戦線に予備・増援を急いだようだ。

ウクライナ軍は大きな損失を出して撃退されたが、その前にロシアは、既に戦争予備費を投入してしまっていた。
数日後、ウクライナ軍がハリコフ地方に攻め込んできたとき、ロシアは不意を突かれたのである。

そして、もう1つの深刻な諜報活動の失敗は、NATO がウクライナの軍事作戦のあらゆる側面に組み込まれていたことである。

なぜ、このようなことが起こったのだろうか。
このような大規模な情報収集の失敗は、
(1) ロシアの情報収集能力、
(2) ロシア指導部のためのタイムリーで正確な報告書の作成能力、
の両方に欠陥があることを示唆している。

これらの対策には、トップからボトムまでの見直しが必要だろう。
つまり、誰かの首が飛ぶ、それもすぐに。

この戦争はすぐには終わらない。
ウクライナは将来の攻撃行動に備えて更に準備を続けている。

ロシアが勝つ理由

結局のところ、最終的な勝負は変わらず、ロシアが勝つと私は考えている。しかし、この戦争を長引かせるためのコストは、すべての関係者にとってはるかに高くなった。

ウクライナの反撃が成功したことに対して、適切な視点に立つ必要がある。この勝利のためにウクライナが被った、そして現在も被っている犠牲は、持続不可能だ。
ウクライナも戦略的備蓄を使い果たし、この路線で前進を続けようとするならば、それらを再構築する必要があり、数カ月かかるだろう。

一方、ロシアは無防備な空間を失っただけだ。犠牲者はごくわずかで、装備の損失も容易に補填できる。
ロシアは、ウクライナの攻撃に耐えうる強力な防衛線を北部に構築し、
まだウクライナ支配下にあるドネツク人民共和国の残りの地域を解放するための、戦闘力を高めることによって、軍事態勢を強化した。

ロシアはウクライナよりもはるかに戦略的な深みを備えている。
ロシアは発電所などの重要なインフラを攻撃し始めており、これは、ウクライナ経済を麻痺させるだけでなく、列車で大量の兵力を迅速に移動させる能力をも麻痺させるだろう。

ロシアはハリコフ敗戦の教訓から学び、掲げた任務目標を継続するだろう。要するに、ハリコフ攻勢はウクライナにとっては大きな成果だったが、
ロシアはまだどん底に落ちていない。
ハリコフの敗北で明らかになった問題を解決するために、ロシアは変化を遂げる必要がある。
戦いに勝つことと、戦争に勝つことは別物だ。

ウクライナにとって、自軍が被った甚大な損失と、ロシアに与えた限定的なダメージとを合わせると、ハリコフ攻勢はせいぜいピュロスの勝利(損害が大きく得るものが少ない勝利の例え / 古代ギリシャ)であり、ロシアがウクライナ紛争には勝っている。そして勝つだろうという根本的現実を変えるものではないのである。

Consortium News

https://consortiumnews.com/2022/09/12/scott-ritter-why-russia-will-still-win-despite-ukraines-gains/

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