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ドラマでよく見る証人尋問シーン、本当のところは?:証人尋問について詳解します~その5~

今回も証人尋問の解説です。

わたしは第59回noteで、テレビドラマでよくある証人尋問のシーンについて、「例えば、弁護士が証人を前に壮大な演説をぶったり説教をしたりする。法廷の外で待機している証人を突然原告側の弁護士が入廷するように指示して、裁判官や被告側の弁護士がその意外性に驚く。弁護士が証人を尋問する最中に法廷内を動き回る。どれも、まずあり得ません。」と言いました。

第59回第60回第61回第63回noteでの解説から、これらがあり得ないことはわかっていただけたでしょうか。おさらいをしてみましょう。

まず、「弁護士が証人を前に壮大な演説をぶったり説教をしたりする」。 あり得ません。証人尋問は、証人から証拠(=人証、証言)を得ることが目的です。それに、証人を困惑させるような質問、争点に関係のない質問は禁止されています。

また、証人尋問には、基本的に時間制限がありますから、けっこうその時間の管理が大変で、そんな演説や説教で時間を無駄にする余裕はまったくないはず。尋問をする人が手持ち用のシナリオや想定問答を作成していて、それを元に質問をする場合がありますが、意外と10秒単位、もっと言えば1秒単位でストーリーが決められていたりします。

次に、「法廷の外で待機している証人を突然原告側の弁護士が入廷するように指示して、裁判官や被告側の弁護士がその意外性に驚く」。やはり、あり得ません。証人尋問は、基本的には、原告サイドないし被告サイドから証拠申出書が裁判所へ提出されて、裁判官が許可して、日程が設定されて、その後にはじめて取り行われます。法廷に証人になってほしい人を勝手に連れてきて、勝手にその人にしゃべってもらってよいはずがありません。

また、証拠申出書には証人の名前や連絡先、立証趣旨、尋問事項が明記されていますし、その副本はもう一方の当事者とも事前に共有されます。ですので、裁判官や相手サイドが本番で意外性に驚くことはありません、質問の内容まで事前にオープンになっているわけですし。

では、「弁護士が証人を尋問する最中に法廷内を動き回る」はどうでしょうか。「あり得ない」と言いましたが、すみません、正確にはわたし自身がみたことがないだけで、もしかするとあるのかもしれません。ですが、一審レベルの残業代請求事件程度の事件であれば、ケースバイケースとは思いますが、法廷は思ったよりも小さいです。それに、傍聴席との境には柵というか扉がありますので、まさかそれを乗り越えて傍聴席へ行くこともないでしょう。となると、歩き回る人がいるとしても、その範囲は相当限られていて、歩き回るというよりも何かもじもじしている感じに映るかもしれません。

証言台に近寄って行って、証人により近い場所から質問するというケースもあるのかもしれませんが、小さい法廷では原告席または被告席から少し頑張って手を伸ばせば、証言台に相当近くなります。わざわざ歩いて行く必要などないのです。

ちなみに、たまに証拠の原本などを原告と被告の双方が法廷で直接みて確かめる機会がありますが、その時も裁判官のところへ歩いて行くというようなことはなく、基本的には裁判所書記官がその原本を原告席・被告席へ持ってきてくれて見せてくれます。

さて、第63回noteで証人尋問には証人が話すことを速記官がタイピングすることを紹介しましたが、後日当事者は「証人調書」として書面を入手することができます。証人調書を当事者が見るためには、裁判所に書面を管理している部署があり、そこで閲覧申請する必要があります。閲覧自体は無料ですが持ち出すことはできないので、必要に応じて証人調書を複写する場合には有料のコピー機を利用することになります(たしか、1枚10円)。

通常、証人尋問は、原告・被告による準備書面での主張がほぼ出尽くしたタイミングで、裁判官の判断によって取り行われます。ですので、証人尋問が取り行われた口頭弁論期日で結審(=裁判での審理が終わること)になることが多いと思います。結審になったということは、それ以降は、証拠の提出や準備書面の提出はもう終わりということ。しかし、証人尋問での証人の証言を受けて何かアングルの異なる主張をする場合、または証人尋問を受けてこれまでの主張の総括をする場合は「最終準備書面」を作成して裁判所へ提出することもあります(裁判官がそれを審理に含めるか否かはわかりません)。

次回noteでは、証人尋問に際してのシナリオや想定問答の作成について解説します。今回もここまでお読みいただきありがとうございました。

街中利公

本noteは、『実録 落ちこぼれビジネスマンのしろうと労働裁判 労働審判編: 訴訟は自分でできる』(街中利公 著、Kindle版、2018年10月)にそって執筆するものです。

免責事項: noteの内容は、私の実体験や実体験からの知識や個人的見解を読者の皆さまが本人訴訟を提起する際に役立つように提供させていただくものです。内容には誤りがないように注意を払っていますが、法律の専門家ではない私の実体験にもとづく限り、誤った情報は一切含まれていない、私の知識はすべて正しい、私の見解はすべて適切である、とまでは言い切ることができません。ゆえに、本noteで知り得た情報を使用した方がいかなる損害を被ったとしても、私には一切の責任はなく、その責任は使用者にあるものとさせていただきます。ご了承願います。

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