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対偶、命題の分解と結合、ド・モルガンの法則・・・。~論理式を使って文章の論理構造を読み解く【基本編】

今回の本人訴訟の「論理学」は、「論理式」について述べたいと思います。

私たちは、文章を読む時、一つひとつの文の条件構造を整理しているはずです。条件構造とは、命題「AはBである」のようにAという条件からBという結論を導く文の構造のことです。「AはBである」は「A→B」と表しますが、これが論理式です。論理式が効果的なのは、命題「A→B」を派生させて、論理式の連なりから文章の論理構造の解明を手助けする点です。命題「A→B」からは、対偶の各命題が派生します。

:「A→B」の逆は「B→A」です。「A→B」が成り立つとき、必ずしも、逆の「B→A」が成り立つ(=「真」と言います)とは限りません。「A→B」が真で「B→A」も真なら、つまりは「A=B」となります。

対偶:「A→B」の対偶は「¬B→¬A」です。「A→B」が真のとき、必ず、対偶の「¬B→¬A」も真となります。この対偶は、文章の論理構造を解明していくとき、とても効果的です。

:「A→B」の裏は「¬A→¬B」です。「A→B」が真とき、必ずしも、裏の「¬A→¬B」も真とは限りません。「A→B」が真のとき裏の「¬A→¬B」も真なら、「¬A→¬B」の対偶である「B→A」も真になり、つまり「A→B」と「B→A」が同時に真になり、「A=B」ということです。

実際の文章では、「AはBである」というシンプルなものだけではなく、「AかつCはBである」や「AまたはCはBである」といったケースが多いと思います。論理式で表せば、前者は「(A⋀C)→B」、後者は「(A⋁C)→B」となります。これら命題からも、逆、対偶、裏が派生することになります。

そして、「(A⋀C)→B」の逆の「B→(A⋀C)」、および「(A⋁C)→B」は、次のように分解と結合が可能です。

■  B→(A⋀C) ⇔  B→A、かつ B→C
 *なお、「B→(A⋁C)」は分解することができない。
■(A⋁C)→B  ⇔  A→B、かつ C→B
 *なお、「(A⋀C)→B」は分解することができない。

文章の論理構造を解明するとき、命題の分解と結合は便利です。また、「否定」を使って文章の論理構造を考えるのには、次のド・モルガンの法則の利用が効果的です。

■ ¬(A⋁C)  ⇔  ¬A ⋀ ¬C
■ ¬(A⋀C)  ⇔  ¬A ⋁ ¬C

命題の分解と結合、およびド・モルガンの法則は、普段はほとんど利用することはありませんが、論理的な文章にはこれら論理式が必然的に組み込まれているはずで、労働審判手続申立書などでの立証の文章はこれら論理式の連なりで表されるものになっています。

では、例題として、この文章を読んでください。
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毎週月曜日、部門内の全従業員が参加して全体ミーティングをすることになっている。前週のミーティングで、進行役の部門長から「今年度3四半期を終えたところで、部門に課された予算(ノルマ)の進捗が昨年に比べて大幅に遅れている。残り1四半期で業績を挽回するための戦略を、部門の一人一人が提案するように。」という指示があった。その指示に対して、部門に所属する従業員全員がそれぞれ提案を書いたレポートを作成し、今週のミーティング前に提出をしていた。そして、今週のミーティングでその集計結果が次のように発表された。

ア. A地域かB地域の少なくとも一方に対して重点的に営業することを提案する従業員は全員、今年度の営業ノルマを達成済である。

イ. C地域に対して重点的に営業することを提案する従業員の中には、今年度の営業ノルマをすでに達成した、A地域への重点営業を提案する、という両方に該当する従業員はいなかった。

ウ. C地域に対して重点的に営業することを提案する従業員の中には、今年度の営業ノルマをすでに達成した、B地域への重点営業を提案する、という両方に該当する従業員はいなかった。

実は、部門長自身は、C地域への重点営業が必要であり、そのための人員編成が急務であると考えていた。そこで、部門長は、どのような従業員が、C地域への重点営業を提案していないのかを把握したいと考えた。
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では、この文章の論理構造を探ってみましょう。なお、A地域への重点営業を提案する従業員を「A」、B地域への重点営業を提案する従業員を「B」、C地域への重点営業を提案する従業員を「C」、そしてノルマを達成済の従業員を「N」とします。

まず、集計結果を論理式で表すと、次のようになります。
① 集計結果ア: A ⋁ B →N
② 集計結果イ: C → ¬(N ⋀ A)
③ 集計結果ウ: C → ¬(N ⋀ B)

これら論理式の対偶をとると、次です。
④ ¬N→¬(A⋁B)
⑤(N⋀A)→¬C
⑥(N⋀B)→¬C

⑤から、ノルマを達成済でA地域への重点営業を提案している従業員は、C地域への重点営業を提案していないことがわかります。また、⑥から、ノルマを達成済でB地域への重点営業を提案している従業員は、C地域への重点営業を提案していないこともわかります。ここで注意すべきは、「N→¬C」となってはいないので、「ノルマを達成済の従業員は全員、C地域への重点営業を提案していない」には論理的にならないことです。では、他にはどうでしょうか。

①と⑤を組み合わせると「(A⋁B)⋀A →¬C」となりますが、これは、「A→¬C」です。一方、①と⑥を組み合わせると「(A⋁B)⋀B→¬C」となりますが、これは「B→¬C」です。「A→¬C」と「B→¬C」が同時に真なわけで、ゆえにこれら二つの論理式を結合して「(A⋁B)→¬C」となります。すなわち、A地域への重点営業を提案している従業員か、B地域への重点営業を提案している従業員かの少なくともどちらか一方はC地域への重点営業を提案していないということなのです。

今回の「論理式」は、ちょっとややこしかったと言いますか、説明の仕方が悪かったかもしれません(すみません・・)。文の条件構造はベン図でも説明可能なのですが、論理式の派生的な連なりは、特に命題の分離と結合やド・モルガンの法則を駆使すれば、文章の論理構造を読み解くのにとても便利です。労働審判手続申立書などの書面を作成するとき、常にこうした論理式を意識すると息が詰まってしまいますが、書面の中で最も重要な立証や主張の箇所については、念のために論理式に当てはめてみて、ちゃんと論理的な文章になっているかを確かめてみてもよいかもしれません。

ただし、普段の生活でこんな論理式をかざしたりすると、人間関係を損ねることになりかねません。また、ブラック企業と交渉する際にこんな論理式を持ち出すと、相手を感情的にさせて、解決するものも解決しなくなる恐れがあります。懐に忍ばしておくくらいが丁度よいかもしれません。そのあたり、どうかご注意ください。

今回は以上です。次回の「演繹法と帰納法」もお楽しみに!

街中利公

PS.拙著も是非手にお取りください。

免責事項: noteの内容は、私の実体験や実体験からの知識や個人的見解を読者の皆さまが本人訴訟を提起する際に役立つように提供させていただくものです。内容には誤りがないように注意を払っていますが、法律の専門家ではない私の実体験にもとづく限り、誤った情報は一切含まれていない、私の知識はすべて正しい、私の見解はすべて適切である、とまでは言い切ることができません。ゆえに、本noteで知り得た情報を使用した方がいかなる損害を被ったとしても、私には一切の責任はなく、その責任は使用者にあるものとさせていただきます。ご了承願います。

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