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払い戻し請求を忘れた立替経費は払ってもらえる?

仕事で立替払いをしたにもかかわらず、多忙でしばらくの間その払い戻し手続きをしなかったばかりに精算を拒否された、保管しておいた領収書が紙切れになってしまった・・という経験はないでしょうか。

会社では、通常、立替払い精算に関するルールが決められていると思います。それが経理規程などの社内規程に明記されている場合、不文律ながら昔からのやり方に従うとされている場合、経理担当の業務の都合に合わせなければならない場合など、そのルールや根拠はまちまちかもしれません。もしそういったルールに結果的に従わず、払い戻し精算の手続きができなければ、立替金額は払い戻してもらえないのでしょうか? 

いいえ、そんなことはありません。法的には、消滅時効によって権利が消滅しない限り、立替金額を請求する権利(請求権)があります。たとえ就業規則など会社規程に決められた通りに手続きしなかったとしても、たとえ経理担当の指示に従うことができなかったとしても、大丈夫です。

ただし、一度立替金額の払い戻しを拒否されている場合、普通にもう一度「精算してください」「払ってください」と言っても再度拒否される可能性が大きいでしょう。その場合、内容証明郵便で請求書を送付したり、協議を尽くしてもどうしても払ってくれない場合、最終手段は民事訴訟「立替金請求事件」を起こすことです。

悪質なブラック企業では、従業員にあえて立替払いをさせて、結局自腹を切らせるようなこともあるかもしれません。そのような会社は、多分にサービス残業を強要していたりするでしょうから、「残業代請求事件」として労働審判の中で未払い残業代と一緒に立替金額を請求していくという方法もあります。

なお、実際に本人訴訟で労働審判を準備している方は、労働審判の全プロセスを解説している第70回noteの購入もご検討ください。

民事訴訟や労働審判で未払い立替金額を請求する場合(民事訴訟と労働審判の違いは第7回note参照)、① 会社からいったん立替払いをするように依頼された事実、② 実際に立替払いをした事実、③ 立替金額、④ 立替払いをした日時、⑤ 立替払いをした目途と場所を立証する必要があります。

立替金額の請求権の消滅時効は5年です(消滅時効については、第18回note参照)。

債務不履行に伴う損害賠償請求権は、民法第167条1項に基づいて消滅時効10年となっています。しかし、立替金額の請求権については、商行為で生じた債権の消滅時効が定められた商法第522条にしたがって消滅時効5年。「立替払いをさせた会社」または「立替払いをした従業員」を商法上の商人、そして「従業員が仕事で会社に替わって支払いをした行為」を商行為と捉えるのです。

なお、2020年4月1日から民法の契約などに関する部分についての改正が施行され(法務省HP参照)、商法第522条の規定は削除されます。しかし、立替金額の請求権の消滅時効5年には変更ありません

新民法での消滅時効は、原則として(例外あり)、新民法第166条1項1号の「債権者が権利を行使することができることを知った時から5年」、または同条同項2号の「債権者が権利を行使することができる時から10年」のどちらか早い方となっています。

立替払いをした場合、通常、立替払いをした時点が請求権の行使が可能になった時点であり、立替払いをした従業員はその事実を当然認識しているでしょう。なので、民法改正後も、10年ではなく早い方の5年の消滅時効が適用されると考えられるということです。

というわけで、立替金額の払い戻し精算を会社に拒否されたとしても、法的には、5年以内であれば会社に支払いをさせることができるのです。

以上、立替金額については、泣き寝入りすることなく法的に毅然としたスタンスをとっていけば、請求できそうです。ところが、立替払いと似た性格の「職場までの通勤費(通勤手当)」や「仕事場までの移動交通費」の「立替払い」となると、ちょっと話しが違ってくるのです。それについては、次回のnoteで解説したいと思います。今回もここまでお読みいただきありがとうございました。次回をお楽しみに。

街中利公

本noteは、『実録 落ちこぼれビジネスマンのしろうと労働裁判 労働審判編: 訴訟は自分でできる』(街中利公 著、Kindle版、2018年10月)にそって執筆するものです。

免責事項: noteの内容は、私の実体験や実体験からの知識や個人的見解を読者の皆さまが本人訴訟を提起する際に役立つように提供させていただくものです。内容には誤りがないように注意を払っていますが、法律の専門家ではない私の実体験にもとづく限り、誤った情報は一切含まれていない、私の知識はすべて正しい、私の見解はすべて適切である、とまでは言い切ることができません。ゆえに、本noteで知り得た情報を使用した方がいかなる損害を被ったとしても、私には一切の責任はなく、その責任は使用者にあるものとさせていただきます。ご了承願います。


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