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【本人訴訟シリーズ】本人訴訟の「論理学」

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「論理学」の知恵を身に着けたうえで本人訴訟に望むなら、たとえ勝訴や期待した結果につながらなかったとしても、そこから得られる学びや知見があるはず。労働審判や訴訟の書面作成の際、隠し…
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立証活動で数値を使うときの注意点は?

久々のnote記事、今回は本人訴訟の「論理学」(第58回noteを参照してください)です。立証活動の時、数値を使うに当たって注意すべきことについて述べていきます。 労働審判や民事訴訟で立証を進める時、証拠(書証)に示された数値を使って定量的な立証をしていけば、説得力は増すことになるでしょう。しかし、数値を使う際には注意しなければならないこともあります。それは、数値の精度に留意すること。当たり前のことではありますが、立証活動では特に気を付ける必要があります。 立証活動で数値

有効な反論のコツは「論理的な強さ」を意識すること

今回のnoteも、第87回の「前提」と第88回の「対応関係と背理法」に続いて、本人訴訟の「論理学」をお届けしたいと思います。テーマは「論理的に強い」ということです。 まず、以下の短文をお読みください。 労働にかかわる社会問題を専門とするA教授とその研究室のメンバーは、企業などへ職場環境の診断や働き方改革のアドバイスをする労務系コンサルティング会社で業績が好調なB社について、次の2つの実験調査を行った。 実験1 A研究室のメンバーはみんな、B社との面談で、研究室にはハラス

対応関係と背理法を使って反論をする

今回のnoteも、本人訴訟の「論理学」です。「対応関係と背理法」について述べていきます。 まず「背理法」とは、第75回noteで説明した演繹法の一つで、「ある事実を仮定して、その仮定のもとで演繹を進めていくと矛盾が発生することを示すことで、その事実を否定する」という手法です。「対応関係」とは、「その仮定のもとで演繹を進めていくと矛盾が発生すること」をみるプロセスと考えればよいと思います。 次の具体例で見ていきましょう。 ソリューション営業部には、勤続年数、営業成績、残業

前提とは「否定されてしまうと、論理的に、どのような場合においてもその主張が維持し得なくなるもの」

今回のnoteは、本人訴訟の「論理学」です。テーマは「前提」。「前提」とは「否定されてしまうと、論理的に、どのような場合においてもその主張が維持し得なくなるもの」のことです。 次の具体例で解説していきます。 管理部門では、従業員一人当たりの業務量が多すぎて、各自が連日残業をせざるを得ない状況になっている。その結果、管理部門の従業員の残業時間は他部門に比べて相当多くなってしまっている。そこで、管理部門長は、残業時間を削減するために、管理部門の従業員を増員すべきと担当役員に申

「一般から個別具体へ」の演繹法、「個別具体から一般へ」の帰納法

今回の本人訴訟の「論理学」は、推論の手法である「演繹法と帰納法」を取り上げます。 演繹法とは、観察された事柄をすでに知っているルール(一般論)に照らし合わせて、その観察された事柄がルールに整合しているかどうかで結論を導く推論の仕方です。第67回noteの三段論法も演繹法の一つで、観察された事柄が小前提(A→B)、すでに知っているルールが大前提(B→C)、そしてそこから導かれる結論(A→C)ということになります。一方、帰納法とは、いくつかの観察された事柄の共通点に着目してルー

対偶、命題の分解と結合、ド・モルガンの法則・・・。~論理式を使って文章の論理構造を読み解く【基本編】

今回の本人訴訟の「論理学」は、「論理式」について述べたいと思います。 私たちは、文章を読む時、一つひとつの文の条件構造を整理しているはずです。条件構造とは、命題「AはBである」のようにAという条件からBという結論を導く文の構造のことです。「AはBである」は「A→B」と表しますが、これが論理式です。論理式が効果的なのは、命題「A→B」を派生させて、論理式の連なりから文章の論理構造の解明を手助けする点です。命題「A→B」からは、逆、対偶、裏の各命題が派生します。 逆:「A→B

ベン図を使って論理的な書面を作成する

今回のnoteも本人訴訟の「論理学」です。第67回の「三段論法」、第71回の「論理の誤謬」に続くテーマはベン図です。 ベン図とは、次のように、集合Aと集合Bの関係を図で見える化したものです。労働審判手続申立書や準備書面などの書面を作成する時、ベン図を描けば、頭の中を整理して論理的な文章を作成するのに役立ちます。 第67回の「三段論法」のところで少し触れましたが、命題には次の4つの基本文型があります。 ① すべてのAは、Bである(=全部を肯定する文型) ② あるAは、Bで

論理の誤謬に要注意!!

今回のnoteでは第67回noteの「三段論法」に続いて、本人訴訟の「論理学」をお届けします。テーマは論理の誤謬(ごびゅう)です。 誤謬とは「妥当でない」「間違っている」といった意味です。論理の誤謬には、以下のようにいくつかのパターンがあります。それぞれ簡単な説明とカッコ内に誤謬の例を示しますので、労働審判手続申立書や訴状、準備書面での文章作成に使用しないように気を付けてください。 論点先取 結論を前提のなかに先に取り入れてしまうこと。「社長はウソツキなんだから、本当のこ

三段論法が「裏付け→事実→主張」に効く!

今回の『本人訴訟の「論理学」』は三段論法についてです。 三段論法とは、「A」と「B」と「C」という3つのことがあって、その3つから「AであるならCである」ということを導く論法のことです。次のような仕組みになっています。 Aであるなら、Bである(A→B) Bであるなら、Cである(B→C) ゆえに、Aであるなら、Cである(A→C) 簡単な例で言えば、 鷹は、鳥です(A→B) 鳥は、空を飛びます(B→C) ゆえに、鷹は、空を飛びます(A→C) 会社を例にすれば、 街中さ

書面作成に利用する隠し味的な知恵、本人訴訟の「論理学」

第58回noteでは、労働審判や民事訴訟の書面作成における、本人訴訟の場合は特に、「論理的な思考プロセス」の大切さについて述べました。 わたしは、そこで、「「論理」とは、私なりに言えば、思考のつながりです。みずからの主張の理由となる事実を抽出して、その事実の裏付けをするという、ちゃんとつながった思考のプロセスをとっていくことが大切なのです。」と述べました。実は、その「つながった思考のプロセス」にはテクニックや手法、ルールがあります。それは、ちょっと難し目に言うと「論理学」と

大切な「論理的な思考プロセス」

今回のnoteでは、少々理屈っぽい話をしたいと思います。 このnoteシリーズでは「労働審判手続申立書」など労働審判を申立てる時の書面の作成について解説してきました。皆さまの本人訴訟では、実務的には、それらを参考にしながら書面の作成をしていただきたいと思います。 もっとも、労働審判や民事訴訟での書面作成で大切なことは、論理的な思考プロセスに他なりません。「論理」とは、私なりに言えば、思考のつながりです。みずからの主張の理由となる事実を抽出して、その事実の裏付けをするという