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まちなか農園 Kさんのインタビュー

はしがきの記事で書いたような経緯で、2024年1月に「まちなか農園」(仮名)の奥様・Kさんにインタビューをお願いしました。

youtubeチャンネル「まちなか農園-365日- #1 春の色」にある音声はその時のものです。


こちらで全文を公開します。


◾️この場所で農業を始められたのはいつからですか?

先代から引き継いだのが夫が42歳の時です。今74歳ですので、32年前からになりますね。
それまで夫はサラリーマンをしていました。
代々この土地で農業をしていましたが、義父が70を過ぎた頃に夫も就農しました。
前の代はもっと広い面積でやっていたんですけど、時代と共にだいぶ縮小しました。
昔はこのあたりみんな農地で、駅に行くまでの間にほとんど家がなかったらしいと聞きましたが、経済成長と都市化によりほとんどなくなってしまいました。

◾️栽培している品目について教えてください

果樹で言うと、5月からブルーベリー、9月は栗とイチジク、10月からみかんと柿。
お野菜は、6月からトウモロコシと枝豆。おかげ様ですごく人気です。
夏野菜はきゅうり、茄子、インゲン、トマト。バジルもやっています。
茄子の中にはサラダ茄子っていうのがあるんですね。これもすごく美味しくて、水分がたっぷり。
ほとんどお得意さんが決まっていて、店頭に並ぶことが少ないんですけど。秋になると里芋、大根、にんじん。
冬になると白菜ですね。

11月に地域の人にみかん狩りを提供している場所


◾️すごく品目が多いように感じるのですが

そうですよね、すごく大変なんだと思うんだけど……夫が勝手に好きなものを作っています。
いろんなことを始めてみたり、よしてみたり。
品種にはとてもこだわっていて、たくさん取れなくてもいいから、美味しいもを作るように心がけています。
大体作ることが好きなんですね。
で、夫が作ったものを私が販売しています。

◾️直売所を設けてらっしゃいますが、販売先はそれ以外にもありますか?

郵便局に置いてもらっています。
先輩の農家さんが出していたんですが、そこはちょうど9月から12月に野菜がなくて。
その間だけ、週3回出しています。
あるものなんでもいいそうで、好きなだけ、好きな値段で置かせてもらっています。
郵便局には用事はないのに、お野菜だけ買いに来てくれる方もいるみたいですよ。
あとは、近くのゴルフ場にも置かせてもらっています。もう30年前から。
当初、義父母と4人で作業をしていた頃は厨房の方にも入れてたんですが、夫婦2人になってからはお土産用に食堂のところに置いています。
そちらもある量だけでいいとのことなので、割と自由に置かせてもらってます。

◾️すごいですね!  ある量だけでもいいからと言うのは、味がおいしくないとできないことですね。
では、お仕事がもっとも忙しくなる時期を教えてください。

6月と9月です。
6月は枝豆とトウモロコシで忙しいですね。4回か5回に分けて時期をずらしていくので。
なんでも食べ物って、一番美味しい時期はそんなに長くないんですよ。
枝豆も収穫したら、一番美味しいのはその日のうち。だから種まきの時期をずらすので、収穫も毎週。
9月はイチジクの収穫で忙しくなりますね。

◾️その頃の生活を教えてください。

9月は朝は5時半に起きますね。8時には畑に来て、夫は収穫、私はパック詰めをします。
みなさん9時になると買いに来られるので、どんどんお渡しします。
イチジクは夕方も収穫して、そちらは自販機に入れたりもします。
大体17時半頃までここにいますね。

◾️イチジク、とても美味しかったです。ちょっと変わった品種ですよね。

青イチジクで品種はバナーネ。とても甘くて一番人気です。
イチジクは8月の終わりから11月までと長いんですが、11月のイチジクは干しぶどう状態で、抜群に美味しいです。
秋は旅行に行ったとしてもイチジクが気になって、せいぜい一泊です。
取ってあげないと可哀想だし、待ってる人もいると思うと。

葉っぱが出てきたばかりの5月のバナーネ

◾️農業の大変なところはやはり目が離せないというところでしょうか

それはありますね。
あと夫が言うには、「自然との戦い」だそうです。台風とか雨とか風とか。そこが一番大変だそうです。
夫は普段のことはあまり几帳面じゃないんですが、畑に関してはきっちり丁寧にやらないと気が済まない性格です。
それなのに台風でダメになっちゃったりすると「立ち直れない……」って。

◾️都市農業ならではの苦労や工夫もありますか?

この辺りは住宅地なので、病害虫退治には気を遣っています。
なるべく手間暇をかけて低農薬での作業を日々心がけているところです。

でも都市農家ならではの喜びもあります。
夫が言うには、お客さんが笑顔で「ありがとう、美味しかったよ」って言ってくださるのが一番のやりがいだそうです。
対面で販売しているので、いろいろ批評してくださって、すごく参考にしています。
イチジクも直売所の品揃えや果樹指導の方の意見を参考に、品種選定して始めました。

◾️栽培でこだわっていることを教えてください

堆肥を手作りするのを大事にしています。
栗を栽培しているんですが、その栗の葉を集めて米糠などを使って2年間かけて発酵させると、いい堆肥ができるんです。
それを土に混ぜ込むと、空気を含んだふわふわの土になります。
そこを一生懸命やってるから、美味しいと言ってもらえる野菜や果物ができるのかもしれません。

◾️以前はこの辺り一面が農家さんだったという風に伺いましたが、今は住宅地になってしまっていますね。

この通りは大山通りと言って赤坂見附から続いていた街道で、江戸時代に大山詣ですごく賑わっていたらしいです。
歴史がある場所ですが、マンションや駐車場で風景がどんどん変わってしまいましたね。

◾️最後に、この場所が今後どうなっていって欲しいと思いますか?

私たち自身は年齢的にも、現状を維持することが難しいところです。
今のところは夫はまだ元気で畑に入れ込んでいて。だからできなくなった時にやっと諦めて先のことを考えるのかもしれない。
でも30年間の蓄積があるから、それが継承されたらいいなとは思います。
1年に1回しか経験できないからと、夫が細かく反省しながら記録してきたものがありますので。

希望としては、畑を残せればと思います。
土づくりってすごく大事で、耕作を放棄してしまうと、元に戻すことが大変なんです。
ここでいろんな美味しいお野菜や果物が採れるから、それがずっと続いたらいいし、お客さんにもぜひ続けてと言われるけども、難しいところです。
現状、国による農地存続のための制度・仕組みもあるようですが、農地の有用性を考えた中で更なる施策を望むところです。

(取材日:2024年1月23日-24日 取材者:伊東菜々子)


Kさんには、どこに掲載するかもかも決まっていない取材をお受けいただき、そのうえ下準備まで含めて丁寧にご対応いただき、本当に感謝しております。

このインタビューを機に、ただのファンであった時と比べて私の解像度も上がりました。
住宅地の中で農業をすることの苦労や、存在することのありがたみに、改めて気付かされました。
そして、いつまであるか分からないからこそ、ぜひ、記録させてもらいたいと申し出たのでした。

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