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チャイを教える理由

きょうはPOMPON CAKESでチャイの教室だった。

POMPON CAKESは鎌倉のケーキ屋さん。オールドスタイルな味と風貌は、昔おばあちゃんに連れられて行った思い出の喫茶店で食べた味がまぶされている。定番の中の新しい味わいには、老若男女にファンがいる。来るお客さんは様々だけれど、お店のドアを開ける時は皆一様に頬に蒸気が漂って見える。

ちなみに、わたしはおばあちゃんと喫茶店に行った記憶はない。おばあちゃんは軽めのパンチパーマみたいな髪型で、家に行けば煙草をふかしながら三ツ矢サイダーを「飲め」とすすめてくれて、わたしのことは「おめぇ」と呼び、煙を吐きながら「ふはは」と笑う人であった。蕎麦を打つのが上手な大好きだった人である。

脱線した。

POMPON CAKESでは、毎月第3水曜に「モーニングカレー」と名付けて、カレーと副菜を盛り合わせたプレートを8時から提供している。わたしのスパイスの先生でもある鎌倉のスパイス屋・アナンバラッツさん、キッチンカーでデビュー予定のカレーユニット・Spice Pleaseのさくらちゃんとりかちゃんの3人で作るカレープレートは、回を追うごとにきらめきと完成度を増している。POMPONのスタッフ・ようこちゃんと、オーナーのレオさんもいつもまあるい笑顔で迎えてくれて「なんと心地の良い一日のはじまりよ」と毎回思う。わたしはチャイのレシピ監修と、モーニングが終わってからチャイ教室の時間をいただいている。

思えばチャイのことを伝え始めて4年が経った。

「きょうが一番楽しかったかもしれない」と教室を開くたびに思う。やる前の日は寝付きにくかったり、資料が出来上がるまで束の間の絶望を味わったり、終わったあと落ち込む日もあるけれど、だいたい楽しかったと思えるから幸せだ。

わたしは自分で淹れたチャイを飲んでもらうのも嬉しいけれど「自分で作ってみて、おいしくできた!」と報告をもらう方が、さらに胸を打たれる。

チャイを教える理由のひとつに「誰かが淹れたチャイを飲みたいから」と私利私欲に満ちた思いがある。

チャイの淹れ方について「教えてもらった通り自分で作ったけど、味がしっくり来ないんですよね。人に飲んでもらうと『おいしいよ』って言ってもらえるんですけど・・・」と、しばしば相談が来る。その人の淹れ方を聞いて一通りアドバイスはするけれど、最後に元も子もなく「チャイって人に淹れてもらうと、おいしいんですよね」とつぶやくと「確かに!」となる。

これは本当のことのひとつだと思う。

だから、わたしは自分がおいしいチャイを飲みたいがゆえに、教室をやっているのかもしれないと時々思う。

チャイは、スパイスの歴史や神話、効果・効能、どこでどう育っているのか、調合の組み合わせ、チャイの淹れ方など、一杯を楽しめる要素が多い。

どの観点から考えて作っても楽しいし、正解もないけれど、自分で自分の思うおいしいをみんなが作れるようになったらいいなと思う。

チャイでも他の料理でもなんでもいいのだけれど、自分の理想がかたちになるってとても嬉しいし、それで人が喜んでくれて、自分にも相手にも活力になって巡っていく瞬間が好きだ。ひとつの鍋で10分くらいあれば作れるチャイは、その体験を叶えやすいと思っている。

わたしと同じようにチャイに興味を持った人が、同じように楽しい時間を増やして、それぞれのおいしいが増えて、誰かと分かち合えたなら。

大きく膨らましては、嬉しくなっている。


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