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Half staff(ハーフスタッフ)とは

Half staff(ハーフスタッフ)という英語を聞いたことがありますか?イギリス、カナダ、オーストラリア英語では、Half mast(ハーフマスト)と言うようです。私は、アメリカに住むようになるまで、聞いたこともありませんでした。日本では全くなじみがない、国旗の掲揚に関する言葉です。上の写真にあるように、本来はポールのてっぺんに掲揚されるはずの国旗が、ポールのてっぺんから下に少し間を開けて掲揚された状態のことを、Half staffと言います。その意味は、国内、国外問わず、自然災害や事件などの悲しい出来事、訃報などがあっとときに、哀悼の意を表しているものです。国旗をもって「敬礼」をしているということになります。何も知らなかった私は、アメリカに住み始めたころ、国旗が中途半端な位置ではためいているのに気づいて、旦那さんに聞いたのを覚えています。日本と違い、アメリカでは、オフィスビル、お店、レストラン、または個人邸など、あらゆるところに国旗が掲揚されています。そして今は、それらの国旗はみな、Half staffになっています。ロシアのウクライナ侵攻によるものです。理由は何であれ、Half staffの国旗を見ると、心に痛みを覚えます。そしてなぜか私は、東北の震災のときもHalf staffだったんだろうなぁ、なんて考えてしまうのです。当時、私はまだ東京に住んでいましたが、毎日の旦那さんとのSkypeでの会話を通して、日本と同じようにアメリカでも、連日報道が繰り返されていたのが伝わってきました。目を疑う光景や悲しい話であふれていた毎日の報道それ自体に、私がある種の「疲れ」を感じたのと全く同じタイミングで、アメリカにいた旦那さんも同じく、その「疲れ」を感じていた様子でした。遠く離れていたとしても「心を寄せる」ことは可能なのだなぁ、とつくづく思ったものです。あの時期にHalf staff状態が続いていたであろうアメリカ国旗を想像すると「ありがとう」という気持ちになるのです。

アメリカでは、国歌斉唱と国旗の掲揚は、とても大切なものです。例えばスポーツの試合が行われる前には、必ず国家斉唱と国旗の掲揚があります。野球やバスケの試合を見に行ったときに、国家斉唱と国旗掲揚の時になると、みんなが立ち上がって、帽子をとり、それを胸に当て、国旗の方を向きます。私にとっては、日系アメリカ人二世の旦那さんが、いつになくアメリカ人に見える瞬間です。彼は、見た目にはもちろんアジア人ですし、家での会話も英語と日本語、そして日本のことも大好きなので、普段はあまり「アメリカ人」として意識することもないのですが、このときばかりは「あぁ、この人はアメリカ人なんだなぁ」と痛感する不思議な瞬間なのです。アメリカは、基本的に移民の国なので、小さい頃から国歌斉唱と国旗掲揚を熱心に取り入れることで、愛国心を養うのだと聞いたことがあります。『あなたが生まれた国があるかもしれません。でも、今、あなたはアメリカにいるのです。アメリカに生活があるのです!』と改めて念を押している感じでしょうか。完全に大人になってからアメリカへ来た私は、アメリカ国歌もアメリカ国旗も“アメリカのモノ”で、国家斉唱と国旗掲揚で盛り上がるアメリカの人々を、いつも外側から見ている感覚です。アメリカ国歌もアメリカ国旗もかっこいいな~とは思いますが、例えばスポーツイベントで、アメリカ対日本があっても、何の迷いもなく日本を応援する「にっぽんじん」です。これは、この先何年アメリカにいたとしても変わらないでしょう。

アメリカでは盛り上がりを見せる国家斉唱と国旗掲揚の場面ですが、日本で、同じことはあり得ません。今や、君が代を聞くのはオリンピックの時くらいですからね。もちろん、日本には日本の歴史や考えがあってのことですが、単一民族の日本は、国民の大半が、当然のことながら日本人として日本に生まれて、まわりも日本人。他の選択肢自体が珍しいので、当たり前のごとく誰もが自分は日本人で、日本に生きている、という自覚があります。いや、あえて自覚する必要さえないのです。だから、意識して愛国心をかきたてようとする必要もないのではないでしょうか。日本人の「愛国心」レベルは、スタート時点で高いので、それ以上あおる行為をすると「あの人大丈夫?」「ちょっとやばくない?」となってしまうのでしょう。それぞれの国のなりたちがあり、事情もありますから、何が正しいということはありませんが、アメリカが何よりも誇るべくアメリカ国旗を、少し下げた位置に掲げるHalf staffという行為の意味の深さは、素直に心にしみるものがあります。いろいろな意味で世界をリードする大国、アメリカ。時には、その言動や態度が世界に対して傲慢に映ることもあるでしょう。そんなアメリカという国が、国を象徴する国旗の位置を少し下げることで、他を思いやる気持ち、亡くなった人への哀悼の意を表し、国旗をもって敬礼するという、謙虚で優しい一面の表れように、私には見えるのです。

一日も早く、Half staffではなく、空高く堂々と翻るアメリカ国旗が戻ってきますように。

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