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羊のわたちゃん

はじめに

このお話は、昨年(2020年)10月に書いた、私の記念すべき、絵本ストーリー第1作です。そもそものきっかけは、仕事帰りの運転中に、たまたま聞いていたポッドキャスト。ホストのふたりがする羊の話を耳で聞き流しながら、私の頭の中に、ポッとイメージが沸き上がり、家に着くや否や、紙切れにそれを書き留めました。字は書けても絵は描けない私の走り書き9枚、その全てが「絵」のみだった、ということこそ、このお話で私が一番大切にしたかったものなのかもしれません。


羊のわたちゃん

作:さかき まちこ

♪これは、たくさんの仲間の羊たちと、牧場で暮らしている、
羊のわたちゃんのお話。

ほかのどの羊よりも、真っ白でモコモコなのが、わたちゃんです。

「わたちゃんの毛は、いつもまっ白ねぇ」
「わたちゃんは、お祭りの綿菓子みたいねぇ」

「綿菓子ってなに???」
わからなくたって、わたちゃんは、真っ白なモコモコの毛が自慢。

そんなわたちゃんの夢は、シープショーに出ること。
牧場で働いている犬のハリーが、ドッグショーでもらった、
キラキラの首輪が、おしゃれなわたちゃんの憧れなのです。



♪わたちゃんには、嫌いなことがあります。

それは、牧場のおじいさんが、羊たちの毛を刈り取ること。
「これであったかいセーターやマフラーができる。
わたちゃんのは、特別にあったかい」

そんなふうに言われても、わたちゃんには、よくわかりません。
自慢の毛がなくなって、ただ寒くて、悲しいだけ。



♪ある日、おじいさんが言いました。
「天気もいいし、明日はおまえたちの毛を刈ろう」

その夜、わたちゃんは、ひとりで牧場を逃げ出すことにしました。
「わたちゃん、シープショーに行く!」



♪牧場の外に出たことがないわたちゃんには、初めてがいっぱい。

季節は春。

きれいなお花たちに、おしゃれなわたちゃんはワクワク。
薄いピンク色の花を、頭につけてみました。
「これで、シープショーで、一番になれる!」



♪わたちゃんの毛は、ますます伸びて、モッコモコ。

季節は夏。

夏祭りにたどりついた、わたちゃん。
「わー!人がいっぱい!キラキラしていて、いいにおーい!」

わたちゃんを見つけた、小さな男の子が言いました。
「ママ、見て!こんなところに羊がいるよ。綿菓子みたいだねー」

「ん?綿菓子?」
わたちゃんが、男の子を見上げると...
男の子の手には、真っ白で大きくて、まぁるいモコモコのかたまりが。
「これが綿菓子ね。綿菓子って、わたちゃんみたい!」



♪わたちゃんの毛は、ますます伸びて、モッコモコの、モッコモコ。
でも、ちょっとだけ、汚れてきちゃったみたい。

季節は秋。

赤や黄色に色づいた葉っぱが、
次々と、わたちゃんの、体の上に落ちてきました。
すっかりカラフルになった姿に、わたちゃんはご満悦。



♪わたちゃんの毛は、もっともっと伸びて、まるで大きな毛糸玉。

季節は冬。

空から、白い雪がちらちらと舞ってきました。
初めて見る雪に、わたちゃんは大喜び。

「雪ってきれい。真っ白で、わたちゃんの毛と同じ!」
遊んでいる間も、雪はわたちゃんの上にふりつもりました。

すっかり遊びくたびれたわたちゃん、だんだん眠くなってきて...



♪雪の冷たさで、目を覚めましたわたちゃん。
そこは、一面の銀世界。

「わぁー、きれーい!」
雪の広場へ飛び出そうとしますが、
なんと、体の上の雪が重くて動けません。



♪そこへ、女の子の声がしました。
「見てー、ママ。こんなところに、雪だるまがあるよ」

ふりつもった雪の重さで、手をふることもできないわたちゃん。
しかたがないので、わたちゃんは目をパチクリ。
「ママー、この雪だるま、生きてるみたい!」



♪「あらまぁ、ゆきちゃん。これは雪だるまではないわ。ほーら...」

ゆきちゃんママが、わたちゃんを、雪の中から抱きあげてくれました。
「ね、モッコモコの羊ちゃん。
それにしても、なんでこんなところに、羊ちゃんがいるのかしらね」

あったかくて、優しいママの腕の中。
わたちゃんは、またもや、ウトウト、スヤスヤ...


♪パチパチという音で目を覚ました、羊のわたちゃん。
そこには、初めて見る、暖炉の火がありました。
「わぁ、赤くって、あたたかくって、きれい」

「わたちゃん、そんなに近づいたらだめよ」
と、ゆきちゃんママ。


♪「さぁ、今日は遅いからもう寝ましょう。
明日はお風呂に入ろうね。それから、毛のカットをしましょう」

すっかりいい気分だったわたちゃん、これにはびっくり。
「毛を切るのはいやぁ...」

それを見た、ゆきちゃんが言いました。
「わたちゃん、大丈夫よ。ママは美容師さんなの。
ママがもっとかわいくしてくれるから、心配しないで」


♪次の日。

ゆきちゃんママは、早速わたちゃんをお風呂でゴシゴシ...
泡だらけになって、わたちゃんは大喜び。

あったかいお湯をザブーン。
タオルでパタパタ。
仕上げはドライヤーでブーン。

真っ白で、モッコモコのわたちゃんのできあがり。
「わたちゃん、大きな綿菓子みたーい!」
と、ゆきちゃんもうれしそう。



♪お次は、いよいよ毛のカット。

ゆきちゃんママがチョキチョキ、チョキチョキ...
ゆきちゃんママのハサミは、まるで魔法の杖みたい。 


♪カットされた、たくさんの毛の束を見た、ゆきちゃんママ。
「本当にきれいな毛ね。そうだ...!」

ゆきちゃんママは、その毛を使って、
ゆきちゃんに真っ白なセーターを編みました。
ママからゆきちゃんへの、クリスマスプレゼント。

わたちゃんへのプレゼントは、クリスマスツリーのてっぺんのお星様。


♪そうそう、ゆきちゃんパパからのプレゼントは...
「夏休みになったら、みんなでシープショーに行こう!」だって!

よかったね、わたちゃん。

おわりに

突如として私の頭の中に「わたちゃん」が生まれてから、文字化するのに、なんだかんだで半年以上はかかったかと思います。お話の最後の部分を書いたのは、忘れもしない、アメリカから日本へ向かう飛行機の中。癌と真正面から向き合う父との束の間の時を過ごすため、コロナ渦で緊急帰国した10月半ばのことでした。それまでは、どうやってお話を終わらせるかという具体案もなく、かといって、それにあせることもなく、締め切りもない状況で、ただ気が向くままに進めていましたが、文章を書くのが好きな父に最初に読んでもらいたい、という一心でのラストスパートでした。「奇をてらった内容である必要はない。読んだ人の心があたたかくなる、ただそれでいい」と、父は言っていました。

そんな父の一押しもあって、推敲を重ねたうえで、某コンテストに応募しましたが、残念ながら落選。でも、嬉しかったことは、このお話を読んで「絵を描きたい」「絵が描きたくなった」と言ってくれたお友達がいたこと。私にとって、それは何よりの言葉。絵が描けない私の頭の中に、なぜか字ではなく絵で生まれた一匹の羊が、私の文字を通して誰かに伝わり、その人の中で「わたちゃん」として生まれる、それほど素敵なことはないのです。

現在、来年の同コンテストを目指して、二作目を執筆中です。これも父に読んでもらいたかった、私の中で熟成させてきたモノです。今でも父は読んでくれると信じ、私の中に流れる父の血を信じて、仕上げていきたいと思っています。お楽しみに!

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