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【メイド写真集】前日譚

※写真も含め、本稿は写真集本編には含まれません。

* * *

何かを待つ時間が好きだ。

紅茶の茶葉を開く待つ時間。ご主人様のお戻りを待つ時間。

数分、数時間、やがてくるその瞬間への期待も不安もひっくるめ、
その先の未来を描くような時間には、愛おしさがある。

「軽食の準備ができました、ご主人様」

給仕は久しぶりだ。紅茶を淹れるより、帳簿を付ける方が向いているのは自分でもわかっている。

「ありがとう。ちょうど完成したんだ、次の展覧会用のデザイン。
きっと脚のラインが綺麗に出て美しいシルエットになる」

「流れるような全円の長い裾が素敵ですね。最近お給仕係になったすらりと背の高い彼女に似合いそうです」

「君にも似合うと思うけれど」

「ありがたいお言葉。ですが、私はこの1着を大切に着ます。
ご主人様からは、もう十分すぎるほどいただいています。
どうぞ、他の者にも袖を通す喜びをお与えくださいませ。」

「そうか。でも、来月の展覧会の同行はお願いするからね。」

うなづくこともなく微笑む、自分の言葉に偽りはない。
なのに、胸が苦しい。

私は初めて、ご主人様に背くことになる。
明朝、ここを発つと決めている。

黙って微笑んだまま、ただ貴方への感謝を胸に抱くこの時間を。
ただここにいることを、ご主人様、どうかお許しください―。


* * *

以上、6/5 メイド博に出す写真集の前日譚でした。
楽しみすぎて、追加で執筆しました
写真も含め、本稿は写真集本編には含まれません。

収録したショートストーリーの一部はこちら

本編収録写真のサンプルはこちら

東京メイド博覧会 I-4 Risbaco サークル出展


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