静かで超高温の熱量を感じる超大作! 北野武監督最新作「首」
先日、北野武監督の「首」を観てきました。
結論、面白かった!ぜひ映画館に足を運んで欲しい作品です。
私が何を思ったのか、少しだけ書こうと思います。
※この文章はネタバレを含むかもしれません。なるべく含まないようにしています。
「首」について
北野武監督が構想に30年をかけた超大作。
主演はビートたけし、そして西島秀俊、加瀬亮、中村獅童、遠藤憲一、浅野忠信、大森南朋、小林薫、岸部一徳ら超豪華キャストが衝撃の戦国映画に集結しました。
新しい、本能寺の変の真相
映画を観終わった直後は、感想がまとまりませんでした。
131分の上映時間は始終飽きることなく、長いとも感じませんでした。でも、映画に対する感想をビシッということができない。
その理由はおそらく、「首はこんな映画」と一言で表す言葉と、私が感じ取った映画のメッセージとがずれていたからだと思います。
「首」を一言で表すなら、北野武が考える「新説・本能寺の変」。
教科書で習う本能寺の変は、主人である織田信長に理不尽にいじめられて嫌気がさした明智光秀が起こした謀反、というように説明されていると思いますし、多くの皆さんもそのように認識していると思います。
近年では本能寺の変に関する本を本屋で見かけることも多くなりました。実は黒幕は徳川家康だった、なおどと面白おかしく書いてエンタメの題材として本能寺の変がいいように扱われていたと思います。
しかし、確かな資料が残っていない以上、本能寺の変の真相、もっと言えば明智光秀の謀反の動機はわからないままです。いかにエンタメで面白おかしく書いても、あくまでフィクション。
このエンタメ題材「本能寺の変」に、映画というメディアで「こういう本能寺の変もアリじゃない?」と北野武なりの想像をのせたのが映画「首」だったと思います。
「大河ドラマへのアンチテーゼ」
映画を観て私が感じ取ったことは、今の時代劇の主流を作っている大河ドラマへの反抗と問題提起でした。
歴史ある大河ドラマは、毎年1人の歴史上の人物を特集してその人の半生を描きます。
特集されるのは歴史上の「偉人」と呼ばれる人たちで、当然ながらその描かれ方も美化されたものになります。輝かしい功績や美談の部分をメインで描く。あくまで大河「ドラマ」ですので、それでいいんです。
ただ、歴史上の人物を題材にしたドラマなため、ドラマの内容が、まるで本当に起こった歴史上の「事実」であることのように思えてきてしまいます。多くはない歴史上の史料からドラマを作り上げるわけですから、そこには少なからずフィクションがあるに違いないのに、です。
こうして大河ドラマによって、クリーンで人間離れした歴史上の偉人像が作り上げられてきたように思います。
ただ実際の人物像は違ったものだったのではないでしょうか?血生臭いこと極まりない戦国時代を生き抜いた戦国武将たちは、本当にあんなにクリーンでかっこいいとしか思えないような人間だったのでしょうか。戦、打ち首、切腹なんてものが日常茶飯事だった時代が、あんなにも現代の人間の死生観に近いクリーンな世界だったのでしょうか。
いや、そんなはずはないだろう。現代からすれば汚いとも思われてしまうようなことも、当たり前のように行われていたはずです。スマホもネットもない時代、嘘なんてつき放題、裏切り放題です。敵将の首が印になる時代、人の死はもっと身近で、今より命は軽薄に扱われていたでしょう。
そんな、大河ドラマでは描かれない「本当の」戦国時代の空気感を描き出した作品が、映画「首」だったのではないかと思います。北野武監督なりの当時の時代感のリアリティを追求して作った映画。
死生観だけでなく、もちろん男色や裏切りも生々しく描く。本の中では戦国時代では男色は多かった、ということは有名になりつつありますが、大河ドラマでは絶対に描写されないですよね。そういう人間的な少し土臭い部分をしっかり視聴者に伝えようとしている作品です。
芸人出身の監督ならではのクスッと笑えるボケ
戦国時代って本当はこうだったのかも?とお思ってしまうようなシリアスで今までの価値観を破壊されるような展開が続く映画ではありますが、映画の要所要所で笑うポイントを作ってくれています。
これが実に芸人らしい。シリアスな雰囲気を逆手に取るような笑いが多く(詳しくは観てのお楽しみ!)、メタ的な発言もない、とても自然な笑いでした。さすがとしか言いようがありません。
ぜひ映画館に足を運んでみてください!
グロテクスな描写とシリアスな展開が続くこともあり、いわゆる熱狂ではない。だけど明確で、濃度の濃いメッセージが迫り来る。そんな作品でした。
確かにこんな本能寺の変もありなのかも、と説得力を持って迫ってくる映画「首」。とても面白かったです。ぜひ皆さんも観てみてください!131分が一瞬で過ぎ去ってしまうはずです。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
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