サワガニっ記🦀③

園子は元気にしている。一人暮らしになった虫かごで広々と、黒い小さな目を興味深げにきょろきょろさせながら。

告白すると、大所帯だった頃、園子はさほど目立つ蟹ではなかった。色や大きさの違いで特徴的だった他の蟹に、注意を引かれていたのだ。園子はダークホースだった。(私たちの誰もこのレースには勝てなかっただろう。)

園子は珍しく、水を嫌う蟹らしい。帰宅すると、たいていは小石の上につま先立ちで立っている。あるいは極度の潔癖症で、少しでも汚れた水には触れたくないのかもしれない。園子に催促されて、私はそそくさと水の取り換えを行う。

彼は帰ってくると、子供部屋を確認するお父さんみたいに水槽を覗く。(だが園子は、まだばっちり起きている)

前にも後ろにも進めない、内向的な蟹には珍しく、園子は臆する様子もなく真っ直ぐに我々を見る。その屈託のなさに、どぎまぎする。(たいていの蟹は横歩きでこちらから距離を取ろうとする。)

何か言いたげに見つめ返してくる。

園子はあまり魂が抜けないタイプらしい。いつも意識がはっきりしている。

蟹と意思疎通はできないものだと諦めていたけれど、何か腹に思っていることがありそうな、親しみやすい蟹。それが園子なのである。

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