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捨てる医師 ver.1

この物語は、ぼくにとっては捨てられたと被害妄想をもっているが、実はぼくが捨てたのではないかという違和感があるものである。もう一年以上前の話だから、そろそろ書いてみてもいいと思ったので書こう。


昨年の春、ものすごく体調を崩した。

最初は何が起きたのか分からないほどの恐怖だったのだが、一回きりだったので一旦は無視してみた。


その半年くらいの後、やはりものすごく体調が悪くなった。

このときは無視できなかったので、いよいよ医師に相談し原因を突き止めた。持病の再発だった。すぐに薬を飲み、いくらかずつ体調を戻していった。


その頃、40も半ばとなっていた。

24時間対応に疲労感を隠せなくなっていた。同時に将来への怖さも感じていた。このままでは患者さんを守れないし、いわゆるビジネスとしても成立しないなと。


自分を守らなければいけないと思うようになった。

倒れたらおしまいだと。守れるものも守れなくなると。


病気の安定のためには安静が必要だった。

一番は十分な休養、つまり睡眠だった。


ぼくは在宅医療を主な生業としていたので、24時間365日対応が原則だった。

とはいえ夜間や休日に緊急コールがくるのは、ほぼなかった。しかしながら、いつ鳴るか分からない携帯電話を肌身離さず持っているのは、案外ストレスがある。


そういう中、十分な睡眠を得るのは無理というものだった。

じゃあ、どうしようか。答えは一つしかなかった。強制的に休む。コールを一切受けずに。でも、そんなことはできるだろうか、いや許されるだろうか。


それで、全患者さんにお手紙を書いた。そして施設にお伝えした。

「1週間に1、2回、緊急コールを完全に受けないという完全オフにさせてもらえないでしょうか?」


ほとんどの方のご理解をいただいた。

「先生も人間なんだからお大事にね」のような言葉とともに。とってもありがたいことだったし、勇気をもらった。ぼくは患者さんを助けているつもりだったが、実は助けてもらっているのだと思った。


一方で一部の方には断られ、主治医が変わることになった。

興味深いことに全て施設の患者さんだった。しかも患者さんやご家族に断られたのではなくて、施設に断られたのだった。理由は想定されるがコメントしない。


ここで正直な気持ちを、吐露したい。

ホッとした。その理由はごめんなさい、心の中にとどめておきたい。


主治医を変えた患者さんやご家族、施設は、ぼくから捨てられたと思っていたかもしれない。断った施設は、ぼくを捨てたのかもしれない。


でも、本当は、ぼくが捨てたんだろうと思う。

そう考えた理由は、やはり書かないでおこうと思う。


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