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[チワワちゃん] (2019)

東京湾からバラバラ死体で見つかった被害者の身元が判明した。でもそれが、あの“チワワちゃん”だったなんて、最初は気づかなかった。たくさんの友達に囲まれてみんなのアイコンだったチワワちゃんのこと、本当は誰も、本名ですら、知らなかったのだーーー

試写で観てきました。爆発しそうな気持ちをそのまま書く。1月18日公開。


難しいことはよくわかんないし考えるの面倒臭いしそもそも考える必要もなくない?だって毎日楽しくカンパイして酔っ払って音で頭の中ガンガンに満たしてさ、でろでろに酔って吐いたあとうがいしただけの口でキスをして、気持ち良いんだか気持ち悪いんだかわかんない。どうやって帰ったか覚えてないけど昼まで彼氏と寝て頭痛を抱えながら目を覚まして、とりあえずそこにあったスナック菓子の袋を開けて、のりしおだらけにしたテカテカの指で携帯を手探りする。突然横から「煙草吸いてぇ」って声が聞こえて、「私もだけどどこにあるかわかんない」って言いながらキスしたらめちゃくちゃ酒くさい。そう言ったらお前もだろって言われて鼻をくっつけて笑う。バイト行きたくねぇなぁ休んじゃないなよって笑いながらとりあえずイチャイチャして、あっ待っておしっこ行きたい、あぁもう行けなくなっちったじゃんこれじゃ〜って苦笑いしながらベッドを出て変な姿勢で歩いていく彼の背中を見送って、のりしおの続きを口に入れる。毎日楽しいしやることたくさんあるし頭の中に余白なんてない。なんかわかんないけど、きょうも急がなきゃ。


…みたいな青春を過ごして来た人に最高のムービーです。(私は残念ながらそうではありませんでしたのでだいたい妄想で上の話を書きました)
そういう若者の焦燥感と浮遊感とときたま感じる虚無感を、蛍光色とキラキラで彩った映像と、耳と心臓がびりびりする音楽でパッケージ。ミュージック・ビデオみたいだ。みんな本気で楽しんで作ってる、役になってる。そういうのが伝わってくるから、正直"オジサン"や"オバサン"が見ると、懐かしさとともに嫉妬と取り残されたような寂しさを感じる気がする。監督は28歳、出演している人たちも20代。みんな瑞々しい。
TikTokはもうジジイとかババアが入ってきたから終わった、って随分前に言われていたのを思い出す。

90年代を映した岡崎京子の世界を現代の設定に変えているけれど違和感はなく、「この時代この時代っていうけどさ、おれらいつでもこうじゃね?」とせせら笑ってみせる若者たちが見える。
あの34ページしかない粗い、だがそれが良い短編漫画を長編映画にすることにも成功している。おしゃれな映像作品としてまとまっていた。映画というより映像作品という方がなんだかしっくり来るような。トランス感があって、のめり込んでいたからか、長さは感じなかった。


で、何が爆発しそうなのかというと。

あの、シーンだ。

あのシーンさえなければ、私はこの映画をイケてる作品として誰かに紹介したかった。でも、あのシーンがあるおかげで、つらさが喉の奥にこびりついて、離れない。その後のシーンでもずっと引っかかっていて、気持ち悪かった。
なぜ、あの描写がなければならなかったのだろう。吉田という謎めいたキャラクターの心情を吐露させたということなのだろうが、私は、とても許せない。やるせない。もちろん原作にはない描写だ。岡崎京子の世界観ではありうる話だと思うけれど、でも…。
悔しくてつらい。それほど嫌なシーンだった。

この気持ちをどうしたら良いのか。

湯を沸かすほどの熱い愛」が大絶賛されてたときに強く抱いた違和感と嫌悪感、あれに似てると思い出した。パッケージで見たら感動作で素晴らしい!と評価されているけど、モラルの問題として、なぜ少女の失禁シーンを入れたの?教室で脱ぐことがいじめへの対抗策なの?その描写、なぜ入れるの?と気持ち悪さでいっぱいになった。自分の娘に立派なセクハラ発言をしてくる若い男を車に同乗させてあげることも。監督の変態性が現れてて、それを感動パッケージでくるんで誤魔化しているところが嫌だった。変態性のある作品だよと堂々と謳っていたらよかったのに!あの描写に気づかず感動している人があれほど多いことが、ますます悲しくなったのだった。
そして、「チワワちゃん」にも同じことが起きている。おしゃれムービーのパッケージになっているけど、若者たちの、すぐ誰かと恋に落ちたりキスしたりセックスしたり付き合ったり別れたり喧嘩したり…そういうものとは別の、あのシーン。とにかく残念でならない。女性なら、あのシーンは受け入れがたいと思う。いや女性ならと定義するのも良くないかもしれない、あのシーンが必要かどうか、なぜ男女問わず話し合われなかったのか。少なくとも、あんなに長時間、これでもかと、吉田の滑稽で愚かな行動やミキの表情を映し続けなくてはいけなかったのか?主演の二人の演技が光るだけに、とてもとてもつらかった。
映画ってそういうものなのか。これは必要な痛みなの?

きれいな世界しか描くなと言いたいわけではない。でも誰かを(登場人物でも観客でも)必要以上に傷つける描写を取り入れることはとてもデリケートでデリカシーを持ってすべきことだと思う。
あのシーンさえなければ、あのシーンさえなければ。
役者も、音楽も、映像も、台詞も、印象的なものにあふれていて本当に格好良かった。

あのシーンさえ、なければ。

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