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スキャンダル[Bombshell]

アメリカの保守系テレビ局FOXで、ベテラン女性キャスターが業界の帝王と呼ばれるCEOを訴えるという前代未聞の騒動の映画化。世代も立場も違う女性キャスターたちによる権力者への戦いを、鮮やかに描く。

一応マスコミ業界に身を置いているので、この作品は観るしかないと思っていたら同じく近い業界にいる友人に誘われて早速観てきた!これを映画にできるアメリカが羨ましい。日本ではこんなこと起こりえない。そもそも日本ではセクハラの程度もここまでひどくないとも思いたいけれど、裁判に持ち込まれることだってそうそうない…。
観ていて目をそらしたくなるようなセクハラシーンの数々。トラウマを持つ女性が観たら耐えられないであろうくらい、とてもリアルだった。幸い私は身の危険を感じるほどのことはなかったけれど、言葉のセクハラを笑顔で交わした経験は何度あるかわからない。ありすぎて思い出せない。「あの人との人間関係作るために飲み会にきて俺の顔を立ててくれよ」、酔っぱらって電話をかけてきて「早く旦那と別れろよ」「俺が20歳若ければ」、これだってつい最近のことだ。すべてにぴしゃりと「やめてください」と言えれば良かった。できなかったから今もセクハラ男はいなくならないのだ、後輩たちに同じ思いをさせることになり申し訳ない。そう後悔の念を抱く女性がどれだけいることか。
マスコミにはセクハラが溢れすぎている。「その程度のことで大騒ぎしなくても」「そんなこと言うと面倒くさい奴だと思われるよ」そして皆、口をつぐむ。女たちが集まるとそんな話が尽きないというのに。

難しいのは、どのセクハラもパワハラと絡んでいること。ここで断ってしまうと後々の仕事に影響を及ぼすな、とか。言うことを聞いておけば仕事をもらえるかな、とか。実際何度か食事に行きニコニコして連絡先を交換して、鬱陶しいLINEに丁寧な返事をしてきたから、今の私の仕事はもらえたんだろうな。そう思いあたることがあって、何も言えなくなるのだ。そして、権力を持つ背景には確かに過去の実績があって、仕事面や人間性(セクハラ以外)において尊敬されていたりする。お山の大将になっている人の周りには味方がたくさんいて、その才能を認めてくれている。だから自分が悪いことをしていると気づくこともなく「自分なら大丈夫」と思っている。本作のロジャー・エイルズもそうだ。自分が正しいと自信がある。妻だって、ぎりぎりのところまで彼を信じ、支えているのだから。

エイルズのあと、人気司会者だったビル・オライリーも司会から降板、そして映画業界のハーヴェイ・ワインスタインへと続いていく #MeToo の流れの中でも、金銭面や社会的地位のはく奪で制裁は受けても、こういう人たちが心から問題を理解して反省する日なんて来るんだろうか。懐疑的になってしまうのが悲しい。(ロジャー・エイルズは思い切り保守系で共和党支持者だが、一方クリントン夫妻とも近くリベラル派として有名で女性の権利に理解があると思われていたワインスタインでも結局セクハラをしまくっていたのだから)

シャーリーズ・セロンがプロデューサーとなりメーガン・ケリーを演じ、ニコール・キッドマンがベテランキャスターグレッチェン・カールソンを、そしてマーゴット・ロビーがこの映画のために作られた役柄である若いキャスターを演じる。それぞれ実在の人物に寄せてメイクも工夫されていて、アカデミー賞メイクアップ&ヘアスタイリング賞を受賞したカズ・ヒロの技がすごい。

それにしても邦題はどうにかならなかったのかな。似たような名前の映画がどれだけあることだろう…。原題のBombshellってダブルミーニング、いいよね。


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