[ファースト・マン] "First Man"(2019)

試写で観てしまったのだけど、このような大作こそ、IMAXで大画面で、映画を「体験」するのが適していると思う。

デイミアン・チャゼル監督&主演ライアン・ゴズリングの再びのタッグにより、1969年アポロ11号で世界初・人類初の月面着陸に成功した宇宙飛行士、ニール・アームストロングの生涯を描いた映画。一人の人間、そして国家プロジェクトの成功を追いかける内容だけれど、いわゆる、多くの困難を乗り越えて目標を達成したぞ!オオー!…みたいなものとは、大きく異なるトーンを持っている。映像の素晴らしさ、迫力や派手さというのは大いに感じるし、宇宙飛行士訓練のシーンや、ミッション中に異常事態が発生してミンチになりそうなほど回転するシーンなどは、酔ってしまいそうなほどのアトラクション的エンターテインメント感はあるが、全体のトーンとしてはしっとり、静寂の映画に仕上がっていると思う。

アームストロング本人がまた、静寂の人、だ。淡々と黙々と仕事に取り組む職人タイプ。家庭でも口数が多いわけでもないし、過去に病気で幼い娘を亡くしていることが彼の人生に大きく影を落として、閉じこもっている印象。主人公だけどヒーロー、英雄ではなく、ただの人間として静かに描いている。ライアン・ゴズリングってそんなに好きな顔ではないんだけど、苦悩する役柄がとびきり似合うよね。

良く考えたら宇宙に音はないのだし、宇宙モノなら派手で音楽もバーン!なSFをイメージしてしまうけど、あまりに大きい責任感のある仕事を取り上げる上で、孤独な闘いを表すには無音がいいのかもしれない。呼吸音しか聞こえない真の静寂さは、とても怖い。

とにかく映像がすごいので、どんな風に撮影しているんだろう、とんでもないCG加工技術に思いを馳せて気が遠くなってしまった。つまらなくて集中力が切れたわけではないんだけど。人生で1本でもこんな映画を作ったら、とんでもないパワーを使い果たしてしまうんでないかなぁなんて余計なお世話ですね。
そして、アメリカが現政権の政策として、火星探査からやはり月探査へと舵を切りなおしたこのタイミングで、こういったとんでもない予算の規模の映画が作られることを、少しナナメに見てしまう自分もいたり。ディミアン・チャゼル監督の支持とか思想のこと、知らないけど。

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