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眠れないのは誰だ


ーーー35をすぎた主演の2人はどのように小学生役を演じるのか。そしてそれは果たして小学生に見えるのだろうか。


渦が森団地へ向かう道


まだ高校生であった私はお芝居と出会い、それはもう大きな衝撃を受けた。目の前で人が動き、言葉を発し、全くの異世界が創り上げられたその瞬間、とてつもない高揚感を感じたのを今でも覚えている。

それから5年。観劇への情熱は冷めることなく、少しずつ劇場へ足を運ぶ回数を増やしながら着実に、この高貴な行動を「趣味」に仕立て上げようとしていた。

そんな中、胸の内で密かにあるものをランキング化していた。

『いつか必ずお芝居を観たい役者ランキング』

である。その中にはミーハー心でという方から舞台俳優として名を馳せている方まで、あらゆる分野の方の名前が混在しているのだが、あくまで「私的」ランキングなのでそこは目を瞑っていただきたい。

閑話休題。

独断と偏見で作り上げられたランキングのトップ2には、「鈴木亮平」「藤原竜也」の2名の名前が堂々と君臨していた。そう、お察しの通り、今回の記事で話題にする舞台『渦が森団地の眠れない子たち』でW主演を務めるお2人である。

こんな話をするからには最速先行でチケットを取ったのだろう、そう思われる方もいるかもしれない。しかしながら、この天から降ってきたようなキャスティングの舞台のチケット販売期間を、あろうことか、完全に誤って覚えていたのだ。仕事だからというのは余りにも幼稚で言い訳にもならない。今後はこのような失態を犯さないよう厳重注意をしていく所存だ。

自らが犯した罪から目を逸らし続け、公演前日を迎えた。潜在意識下で神からの御告げでもあったのか、はたまた今まで目を逸らし続けてきたことへの贖罪の意なのかは定かではないが、目的としていた公演日の前日、私は徐にチケットサイトを立ち上げ、販売状況の確認をし始めた。

販売終了

販売終了

販売終了

………


ずらりと並ぶ無機質無情な「終了」の文字。これでやっと諦めもつく、とサイトを閉じようとしたその瞬間、思わず声を漏らしてしまったのは仕方のないことであろう。


見つけてしまったのだ、「販売期間中」の5文字を。


冷静になって考えると、元々の座席表には載っていないその席番はどうやら遅れて開放された機材席であったらしい。しかしそんなことはどうでも良い。真顔で財布からクレジットカードを取り出し、何の迷いもなく淡々と画面操作を行い、決済完了画面が出てきたところで長く深い息を吐いた。


遠回りをしたけれども、このようにして渦が森団地行きの切符を手にすることができた。








渦が森団地の眠れない子たちを目の当たりにしたら私が眠れなくなったお話(ネタバレ注意)


やっとの思いで手に入れたチケットを握りしめ、劇場へ向かい、開放された機材席に感謝の意を込めて心の中で礼を申し上げながら席につく。


冒頭でも述べたように本当に小学生に見えるのか。そんな不安と期待を胸の内に上演開始を待っていた。


ブザーが鳴る。

騒めきが消える。



1幕。
きちんとした装いかつ背の高い鈴木亮平さん演じる圭一郎は、正直あまり小学生には見えなかった。周りの役者さん演じる小学生の集団からは明らかに浮いていた。ちぐはぐだった。
その一方で藤原竜也さん演じる鉄志は、最初からあまりにも小学生であった。鉄志より25も歳上の人が演じているという衝撃的な事実を忘れてしまいそうなくらいには。

幕間を挟み2幕。
団地の子供達の中心の座を手にした圭一郎は小学生であった。ガラッと雰囲気が変わっていた。これは単に、服装が変わったという「視覚的変化」のみに起因するものではないだろう。1幕で感じたちぐはぐは、団地に馴染めていない圭一郎の、或いは生き物に危害を与えている圭一郎の、内面からにじみ出る不協和だったのではないだろうかと勘繰ってしまう。あまりにも見事な幕間の使い方であった。

また、圭一郎の1番の秘密を知っていたのにも関わらず、鉄志は最後までその事実を誰にも告げずに団地を去った。彼は、親戚関係にある圭一郎のことを、『血縁の誓い』を交わした圭一郎のことを、本当に裏切ることはできなかったのだと推測する。

となると、鉄志も親が違えばもっと素直にみんなと関わることができる子だったのではないだろうか。そう感じた。悲しかった。悔しかった。子どもは親を選ぶことができないのだ。その事実を改めてつきつけられ、最後にまた一段と暗闇に落とされた。

そう感じていたため、本当の本当のラストシーンであの展開を持ってきた蓬莱監督には感謝と同時に「やられた…!」と思わされた。危うく声に出すところであった。(もしかしたら出ていたかもしれない)

何が起こったのか詳しく書いてしまうとこれから観る方の衝撃を損ないかねないため、今更ではあるが最後のネタバレは自粛する。既に観劇された方は共感なり反論なりをしていただければと思うし、これから観劇予定の方はぜひラストシーンは力を入れて刮目していただきたい。そして何かの御縁でこの記事を見つけ、ここまで読んでくださった方がいらっしゃったら声を大にして伝えたいことがある。





「渦が森団地で眠れない子たちが何をしているのか、ぜひ覗きに行ってみてください!!!!!」





***






あまりにも難しい感情に揉まれ、この記憶が新しいうちに言葉に落とし込みたいと思いソワレ終演帰宅後、今私は眠らずにこの記事を書いている。


渦が森団地の眠れない子たちを目の当たりにしたら私が眠れなくなったお話(完)


※勢いのまま投稿する勇気がなかったので、記事を書き上げて寝て起きた翌朝、文章を推敲した上で投稿しています。