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遭遇

何で、待ち合わせ場所に来るのが
君じゃないんだろうか。約束をしたのは私なのに。


私は誰のためにこんなお洒落して、完璧にメイクして、待ち合わせ場所で待機しているんだろう。可愛いなんて言葉をくれる訳では無いのに、ただ都合のいい、寂しさを埋める友人に、何を求めているんだろう。


こんなに可愛くなったというのにここに来るのが君では無いのが悔しくて、悲しくて、手が震える。改札前で涙を流しそうになった。


君ならどう声をかけてくれていただろう。


好きだった彼は、女性の変化にめちゃくちゃ気付いてくれるタイプだった。まつパした?とか、前髪切った?とかは、まあ勘のいい男性(彼女のことをよく見ている男性)ならば気付く事もしばしばあるだろうが、アイラインの長さとか、アイシャドウの色とか、そんな細かいところまで気付いてくれる。そんな彼が好きだった。


いつもより長めに引いたアイラインを褒めるときだって、「あれ?いつもよりアイライン長い?」という所から始まる。

これはまあ良いとして、え?可愛い。とか、えーこっち向いて?目見て?っていって、私の目を見つめながら可愛いと伝えてくるのだ。どうせ嘘だ。でも嬉しかった。どうしてそんな目で私のことを見つめるのか。


思い返せば、私のことを見つめてくれたことなんてなかったと思う。君はしっかりしてるように見えて全部適当で、どういう感情なのかが掴みにくい人だった。見つめていたのはいつも私だけで、私はこんなにも真剣に君のことを見ているというのに、君は私のことをちゃんと見てくれたことなんてなかったように思う。


君がくれる「可愛い」が生き甲斐だった。自己肯定感の低い私にとって、そんな些細な言葉でさえも舞い上がってしまうほど嬉しかったから。



待ち合わせして、餃子を食べて、お酒を飲んで、カラオケに行って、結局ホテル。またか。君以外の「可愛い」なんて何も響かなかった。行為中にしか言ってくれないような可愛いなんて求めていなかったし、腹が立ったけれど、照れた振りをしてみた。

結局平日だと言うのに帰れず、朝まで一緒に過ごした。次の日はまあゆっくりめだったので何とか間に合ったけれど、かなりギリギリで、その癖電車も遅延していてかなりハラハラした。


私の家はアクセスが悪く、最寄り駅までバスで向かう必要がある。まあ自転車でも行けるけれど、30分程掛かるし、体力のない私からしたら少しキツイので、自分に甘えてバスに乗っている。

今日の朝も、いつものようにバスに乗った。通勤ラッシュの時間ではなかったのでいつもよりは気持ち空いていた。



君の定位置だった、1番後ろの端っこに座った。君とバスに乗ったあの日から私の定位置はそこなんだ。眠いなあ、なんて思いながらただバスに揺られていたら、私の好きだった人がバスに乗りこんでいた。1秒くらい目が合ったけど、思い切り下を向いて目を逸らした。



え?なんで?なんで

そもそもこのバスは10分に1本くらいのペースで来るし、君はいつもここのバスじゃなくて、もっと家の近くから出てるバスに乗るじゃん。なんでこのバス?しかもなんでこの時間帯に?車通勤じゃないの?
なんで?が沢山だったけれど、ビックリしすぎて思わず友人に連絡してしまった。



これだから地元恋愛は。本当なら腹立たしいはずなのに、君と同じ空間に居られてるのが嬉しくて、嬉しくてたまらなかった。
久々に見た君は前髪を上げているワイルドめなスタイルではなく、下ろしていた。今の彼女の好みだろうか。以前よりも優しい印象で、かっこいいなあなんて思いながら、こっそり君の後ろ姿を眺めていた。幸せだった。


バスを降りて、私はまっすぐ駅に向かうのだけど、君は駅には向かわず、どこに辿り着いているのかよく分からない階段を登って行った。ホットした。もし駅ならば恐らく方面が一緒なので、気まずいままになるところだった。



階段登ってるな。
私の事、気付いていたよね?


気付いてくれていたのかも分からないけれど、階段を登って私よりどんどん上に行く君を、思わず見てしまった。彼もまた、上からこちらを見ていた。

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