君を見ていた…… ~お題2つでショートショート その4~ 『廊下』『天井』
ホームルームが終わったようだ。
この学校の生徒が皆、廊下に出てくる。
すぐに帰宅する者もいれば、部活へ向かう者もいる。
その中に、彼女はいた。
『彼女』とは、俺が最近気になっている女子のことである。
彼女は女子テニス部のエースらしく、いつも授業が終わるとすぐに部活に向かっているのだ。
今日も彼女はテニス部の友達と会話をしながら部活に向かっている。
「とうとう明日は大会だね」
彼女は言った。
「うん。そうだね! そこでいい結果を残すためにも、今日も練習頑張らなきゃ」
――そうか、明日は大会なのか
俺は彼女に応援の言葉をかけたかったが、そんな勇気は無かった。
だから、心の中で小さく「頑張って」と彼女を応援した。
大会が終わった翌日、彼女はテニス部の友達と一緒に同じ廊下を通りかかった。
だが、彼女はいつもよりも元気がない。
どうしたのだろうか。
そんなことを考えていると、テニス部の女子が彼女を励ますように言った。
「元気出しなよ。今回はダメだったけど次の大会で頑張ればいいじゃん!」
「ありがとう。私は大丈夫だから……」
彼女はそう答えた。
どうやら、大会で良い結果が出せなかったようだ。
彼女は口ではそう言っているが、明らかに元気のない様子だった。
俺は彼女を励ましたかったが、話しかけることは出来なかった。
――だって、俺が話しかけたら……絶対に怖がられてしまうから。
いつもそうなのだ。俺が話しかけると、決まってみんな、この場から逃げ出してしまう。
俺はただ、みんなと仲良くなりたいだけなのに……。
だから俺は、ここ二十年間、誰とも喋っていない。
俺は彼女に話しかけたい気持ちをぐっと抑える。
しかし、彼女の悲しそうな顔を見ると、どうしても励ましてあげたくなってしまう。
彼女が元気になるのであれば、俺は彼女に嫌われても、怖がられても良い。
そう思えた。
俺は彼女をこの廊下で見守ることしかできないのだから。
幸い今は彼女たちしかこの廊下にいない。
――今しかない!
俺は決死の覚悟で彼女に声をかける。
「元気出して。次で頑張ればいいじゃないか。俺も応援してるからさ」
彼女たちは驚いて言う。
「何? 誰? どこから喋っているの?」
俺はその質問に答える。
「上だよ」
彼女たちは天井を見上げた。
その瞬間、学校中に響き渡るほどの悲鳴が上がる。
当たり前だ。その天井には、気味の悪い大きな口が浮かび上がっていたのだから。
やはり駄目だった。
結果的に彼女を怖がらせる結果となってしまった。
やはり俺は人をただ見守って生きていくしかないんだ。
たとえ人が悲しんでいても、困っていても、俺には何も出来ない。
だって俺は…………『天井』なのだから。
<了>
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