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いつも「残りもの」のチーズケーキを選ぶ母を「かわいそう」と思い込んでいた話

(2012年12月2日「松ちゃんの教室」ブログ記事再掲)

 子どものころ、チーズケーキが好きになれなかった。味もさることながら、見た目が地味。ケーキのくせに、茶色はない。

 当然、数種類のケーキをおみやげでもらったりすると、兄弟間では色鮮やかなフルーツの盛られたケーキが一番人気。結果、「不人気」で売れ残ったチーズケーキを母がもらう……。というケースが少なくなく、そのたびに「かわいそう」と同情しつつ、どこか後ろめたさすら覚えていた。

 とはいえ、譲ってあげるほどの度量もなく、単純に「大人って損だな」と思っていた。子どもは、大人も含めて誰もが自分と同じ価値観で生きているはずと素直に信じ込む生き物である。自分が好きなケーキを、きっと親も好きに違いない、と。

 似たような感覚を、小学校の入学前にも抱いた記憶がある。当時、双子の兄と母の3人で保育所から(おそらく電車ごっこで)帰る際、誰が先頭を歩くかが大問題であった。おバカな6歳男児にとっては、先頭の運転手こそが名誉。母はもちろん「先頭になりたい」などとは言わず、最後尾の車掌にいつも甘んじていた。

 母想いの私は、殊勝にも「たまには代わってあげようか?」などと聞いたこともあったが、「気持ちだけ……」と断られ続けた。

 親になった今、母は単に安全上の理由からそうしていたのだと分かるようになった。同じシチュエーションなら、今の自分もきっとそうするはずだ。気がつけば、私も見た目の派手なケーキより、シンプルなチーズケーキの方がおいしいと思える大人になっていた。

 先月、私と妻の誕生日のために、いつも前を通る洋菓子店でケーキを選びながら、そんなことを考えた。結局、子ども用にイチゴののったショートケーキ二つと大人用にふわふわのチーズケーキ二つを買って、家路に就いた。

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