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小説|赤いバトン[改訂版]|第5話 ペンネーム(語り:ユカリ)

わたしは今、自分のペンネームを考えている。せっかくのダジャレネーム[小荒こあらユカリ]でいくか、旧姓きゅうせいでいくか、はたまたまったく違う名前にしようか、初めての経験なので、ワクワクしながらも、とても悩んでいる。
わたしは愛知県内にある大学の文学部を卒業して、名古屋市内の広告代理店に入社した。しばらくは営業部にいたが、異動願いどうねがいを出して制作部に移った。そして、わたしの名刺の肩書かたがきが、コピーライターに変わった。なりたいと望んでいた職種だったが、先輩や上司からは、
「漢字が多すぎる。コピー読みづらい」
ひとりよがりの純文学」
「迷いが見える。ゼロから考え直した方がいい」
「テクニックは認める。が、お上手なコピーはらない」
不甲斐ふがいない自分に対して、くやしいことの連続だった。

コピーライターの名刺を持つようになって、二年目のことだった。
名古屋駅のコンコースで、ある転職サイトのポスターに出会った。

[もう背伸びはやめたい]

仕事で苦しんでいたわたしの心に……。しかも不意打ふいうち。
(ヤバい、あふれる)
だから咄嗟とっさにポスターから逃げた。
でも無理だった。歩きながら泣いた。ボロボロ泣いた。

もちろんわたしは転職しなかった。でも、このキャッチコピーは、転職したいと考えている人の心に寄りい、勇気を与えてくれるコピーだと思った。それからのわたしは、コピーでボツることが激減げきげんした。広告のターゲットの、心のためのコピーにてっするようになった。
昨年、結婚を機に、会社をめてフリーランスになった。おかげさまで、仕事の依頼は続いている。これまで通り旧姓きゅうせいで、広告の仕事を続けている。
……で、ペンネーム。
かれこれ三年ほどお付き合いのある、名古屋のAMラジオ局・あいしるラジオ放送さまから、ラジオドラマの脚本依頼があった。
「わたしに? わたしが? 脚本ですか?」一瞬ためらったが、
「やらせてください! お願いします!」と快諾かいだくした。

コンセプトは、愛を知る(仮)。
ストーリー含めて具体的なことは、これから打合せでめていく。

……という訳で、ペンネーム考え中。これも仕事なので旧姓きゅうせいでも構わないのだが、先方せんぽう(編成部)から「ペンネームもOKです」と言われ、こんな機会はそうそうないため、(よし! いっちょ考えたるか)と意気込んでいるのである。

~ 第6話 校長先生(語り:リカコ)に、つづく ~


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