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ジモチーのサバイバル能力 マカピーな日々#0217

マカピーです。

マレイシアのサバ州にはキナバル山という海抜4100mほどの高峰があります。その次がトゥルスマディという山で2600mほどです。キナバル山は中国語で「神山」と表記されます。サバの州都のコタ・キナバルはこのキナバル山から命名されました(英国領時代はジュッセルトン、その前はアピアピと呼ばれていました)

一方のトゥルスマディは第二位の標高を持ちながらも、キナバル山系とは異なる地域で1980年代はほとんど無名?でした。マカピーたちが出かけた前には法政大学の登頂記録がある程度でした。


マカピーは同じ協力隊で植物学者だったKさんに誘われて、そこへ登ったのでした。ほかに誘われたのはこの山の近くに赴任していたAさんでした。

Kさんは、植生調査が目的でそれに付き合う人が欲しかったのでマカピーは冒険ができそうなのでホイホイついて行きました。

このトゥルスマディ山は道らしい道がないのでふもとのケニンガウの村へ行き、土地にあかるい4名のガイド兼荷物運び係を雇った際には彼らの家に泊めてもらいました。

なんと、その集落の家は柱以外はすべて竹でできた家で実によく弾むので驚きました。犬も同居していて、寝ているマカピーの頭の上を犬がまたいで通りましたがそれだけでもユサユサ家全体が揺れたほどです。

出発して最初は農地も点在する川沿いを上り山奥に入ると全く人の気配がなくなります。雨もシトシト降り快適な山登りではありませんでしたが興味深いことが沢山ありました。

それは、森で暮らす人々の知恵でした。

雇ったのは60歳ほどのおっちゃんとその10代後半の甥っ子3人でした。おっちゃんはリーダーでライフル銃を担いでの参加でした。

2日ほど歩いたころ、森の中で立ち止まるとそこには昔キャンプをした後で炊事場のような棚が崩れかけていました。

よく見ると、そこに散らばっていたのがヤマアラシのトゲ(体毛が変化し刺さると痛い)とイノシシの牙でした。

マカピーは話に聞いていたけれど、ヤマアラシの筒状になったトゲがこれほど大きなものだとは知りませんでした。これはペンホルダーに使えるかなあと考えました。イノシシの牙は噛み合わせ個所がとても鋭利になっていてお土産物屋さんにもペンダントとして売られているものです。

マカピーはその残骸を貰って帰ることにしましたが、いつまでも腐臭が残りました。

雨の登山で困るのは増水で川の渡渉ができなくなることです。増水した川で足元をすくわれたら命がありません。しかも天気が回復する見込みもないのでここで待つわけにもゆきません。どうしたものか?

マカピーたちは小休止していると、ガイドは腰に付けたパラン(蛮刀)で人間よりも大きな胴回りの木を20分ほどでバキバキメキメキガシャーンと伐り倒しました。方向もばっちりであっという間に天然の丸木橋を作ったのには唖然としました。

その後で、彼らは何やら見つけたらしく参道脇のヤシの仲間をものの5分ほどで切り倒したのでした。ドッサーン。

「何でこの木を倒したの?」

「ああ? これだ、食べられるんだ。うまいぞ」

木の先端部分近くを切り分けてタケノコのような未熟な葉を取り出して食べるとアクもなく確かに生野菜感覚で食べれるのでした。

日本でいえば小さなマガリダケ程度しかとれない食用部分のために、こんなにデカい樹を倒していいのかしら?って思いました。

「ティダ・アパ (問題ない)」  

その晩も、周囲にわんさかといるヤマビルに襲われないように注意しながら森の中にテントを張り、持参したラーメンをみんなで食べると後はすることがなくなりましたが、ガイドたちは「ちょっと出かけてくる」と暗闇に消えて行くのでした。

しばらくすると闇の中からピー、ピーと草笛のような音が聞こえました。

「何だろう?ガイドたちの笛かな?」

すると、ズドーンとライフルの銃声がしじまに響き渡りました。

「何だ、なんだ?」

続いて、もう一発、ズドーン。


しばらくすると三人はテントのそばに何かを引きずってきました。

一つはシカでもう一つはヤマネコの一種でした。

シカはその場で解体して肉を食べましたが、残念だったのは妊娠していたメスのシカでした。彼らも通常は妊娠していると分かっているメスは撃たないそうです。

ヤマネコの方は絶滅危惧種指定種だったのでした。もったいないのでk氏は皮をはいで塩をもみ込み保存した後で、勤め先の大学に剥製として寄付することにしました。

あとで今夜の猟の様子を三人に尋ねるとこんな話でした。

まずシカを見つけると木の葉で草笛をつくりそれを鳴らします。シカは聞きなれない音に動きを止めてあたりを伺うので、その瞬間を銃で狙って射止めるのです。日本のマタギがシカを見つけると勢子が踊って注意を引き付けて射手がそれを撃取るやりかたと同じですね。ところが今晩はそのシカを狙っていたのは彼らだけでなく、ヤマネコがこっそり追いかけているところに遭遇したので両方とも頂いたのだという事でした。一挙両得とはおそるべし!

標高が2000メートルを超えると植生が変化するのが分かります。そして苔むした山稜を歩くのですが岩の上に木の根がありそこにコケが分厚く覆っていてふかふかと気持ちいいものでした。(雲霧蘚苔林)

ところがちゃんと根の上のコケを踏まないと、ズボッと太ももまで落ち込む落とし穴状態の岩稜だったのです。ほとんど中空回廊のようです。誤って体ごとすっぽりと滑落したら助からない深い谷が眼下に広がりとても緊張して通過しました。

ようやく、トゥルスマディ山頂近くにでると傾斜も緩やかになり山道に覆いかぶさるような植物がありました。それは大きなウツボカズラでした。

マカピーは食虫植物のウツボカズラを知っていましたが、それは山の斜面にある大きさが手のひらに収まるほどのものでした。ところが、そこにあったウツボカズラは巨大でピッチャー部分がおそらく1.5リットル以上の容量をもった種類でした。またその名もシビンウツボカズラという初めて見るタイプもありました。


先頭を行くガイドさんたちはウツボカズラが垂れ下がって行く手を遮っているので、腰につけていた蛮刀でバッサバッサと切り落とすのでした。

その後からK氏が「貴重な種類なのにもったいない、もったいない」と拾い集めていました。(後日大切に持ち帰り、大学の標本となったそうです)

雨の山頂に停滞しながらK氏は戸外で植物の名前をラテン名で言い、それをA氏がノートに記録する作業を延々と続けていました。一方マカピーは暇なのでガイドさんたちと一緒のテントにいました。

マカピーの手持ちのパッケージに入った普通の煙草が切れてしまい、彼らから煙草を分けてもらったら発見がありました。

なんと彼らの刻みタバコはトウモロコシの皮で巻いていたのです。

ナルホド

マカピーが住んでいた海岸近くで暮らす人々はニッパヤシの若葉を乾燥したもので巻きましたが、こうした内陸部ではトウモロコシの皮を利用していたんです。

もちろんフィルターなしですからドキッとするほど強烈な煙草でした。

マカピーの小さな冒険譚でした。

最後までお読みいただき感謝します。毎日マカピー的史観を更新していますので引き続きお読みいただければ嬉しいです。

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