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「お盆」


「酒飲みの片思い」(1984年作品)より

 八月になると京都では、精霊を迎える行事がいろいろと行われます。
 五条通りの両側に、約四百軒の露店が賑やかに出る、陶器まつり。陶器まつりは、七日から四日間、陶器の神・若宮神社の祭りにちなんで開かれます。堀り出しものを捜す人・人・人で、歩くのも大変な混雑です。
 その近くの六道珍皇寺では、六道まいりといわれる、精霊迎えが行われます。参道筋には、高野槇や蓮の花、ミゾハギ等を売る店や屋台が立ち並びます。
 東山の丘陵に広がる東大谷墓地では、二万個近くの燈龍ちょうちんに火がつく、万燈会が行われます。キラメク無数の火の中を、夕涼みをかねて、十四日から三日間で、十万人以上が参拝します。
 十六日には、京の夏の終わりを告げる、大文字・五山の送り火が行われます。その夜の八時から四十分の京都の街は、ビルの明りやネオンも消され、古の京に戻ります。
 まだまだ暑さの残る、二十三日、四日の二日間。
 京都の町のあちこちでは、子供達の夏休みの最後の楽しみである、「地蔵盆」が行われます。
 市内に五千体ほどあると云われる石地蔵は、細い路地の中ほどや、小さな辻の奥にあります。
 地蔵盆は子供が主役。お地蔵さんを囲むように、町内の子供達が描いた行燈や、ちょうちんで飾ります。夜になると、湯上りに浴衣がけで、行燈やちょうちんの火の下で、キャッキャとはしゃぎ回わった、昔のことが想い浮かびます。
 食べものの少なかった時。甘いお菓子の味。白く粉がふいた露のしたたるぶどうの房の重さ、うまさ。すいか割りのくだけたすいかの赤さ、種を出しながらほうばった甘さ。等々。私の地蔵盆の淡い想い出の味です。
 大人は、夏の終わり。空が茜色に染まる頃。鳥が夕陽に向かって飛んでいく頃。鴨川に向かって張り出した床で、夕涼みを愉しみながら、友と一杯。この涼味、酒味、忘れがたし。古の人々を想う八月もこれにて幕引き。

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