【へっぽこ体験記】SL銀河に乗りたい〈後編〉
前編はこちら↓
1,050円の10分間のために
さて、宮沢賢治記念館を堪能し、新花巻駅に戻ってきました。
駅の中を探索していたら、SL銀河の空席状況を発見。
翌月まで全席満席。
切符を持っている優越感を感じます。
しかし、1ヶ月前に予約して取れた切符は1駅分。
SL銀河は、始点から終点まで乗車すると4時間半楽しめる列車になっています。
しかし今回は新花巻駅→花巻駅の10分間しかありません。
ちなみにSL銀河の車両はすべて異なるテーマになっていて、ライブラリーやミュージアムなどが併設されています。
10分で、できれば4つの車両すべてを探索したいところです。
***
待ちに待った乗車
向かうのは、新花巻駅の釜石線。
撮り鉄の人たちも続々と集まってきています。
ホームにも人が集まってきて、意気揚々とした雰囲気になる新花巻駅。
そして、ついに登場。
ボーーーーという汽笛を鳴らして、こちらに向かってくるSL銀河。
想像していたよりも生々しくて、その存在に圧倒される。
ゴーーーーとホームに到着。
よし、乗ろう!!と思ったがその前に、もう一度近くで蒸気機関車の部分を見たいと思い、走って先頭へ向かいます。
煙突から出る黒煙。
ボイラーに投入される石炭。
まじまじと色んなところを見てしまう。
周りにいる人たちも、凄いねぇと言って写真を撮っている。
私も、凄いなぁと思って夢中になる。
***
〜5分後〜
さて、なぜ私はタクシーに乗っているのでしょうか。
〜遡ること5分前〜
***
SL銀河に夢中になっていると、
「発車準備OK」
「発車します」という声が。
…ん????
発車します??!!!
やばい!!!!!
そうだ、乗らなきゃ!!
私は夢中になりすぎて、「発車する」という概念が頭から消えていた。
乗る!乗ります!!!と切符を掲げた。
けど、
時はすでに遅し。
乗り遅れた私に気づき驚いた乗務員さんが、一瞬はどうにかできないかという動きをしたものの、
すぐに無理だと悟り、申し訳なさそうな一礼をして列車と共にゆっくりと遠ざかっていった。
しゅぽっしゅぽっと、目の前で列車が流れていく。
乗客の人たちが満面の笑みでホームへ手を振っていく。
手を振り返すしかなかった。
SL銀河は駅を離れていった。
乗れなかった。
そんなことあるのか。
静岡から来たのに。
手元に残るはずのない切符が、今、自分の手にある。
落ち込んでとぼとぼ歩いていると、
「大丈夫ですか?」と女の人が声をかけてくれた。
「乗り遅れてしまいました…」と言うと、
「見てました…」と言われた。
***
SL銀河の乗務員さんに悪いことしたなぁ。
タクシーの運転手さんに一部始終を話したら、
「それは残念でしたねぇ、、」と同情してくれた。
そして、ポツポツと、現役で走っていた頃のSLの話をしてくれた。
「今の列車は今風にちゃんとつくってるから、煙は入らなんだしね。」
昔は、トンネルに入ると窓から黒煙が入ってきて真っ黒けになったりしたそう。
その黒煙に釘付けになっていたら乗り遅れてしまった。
「蒸気だもんね、生き物みたいだもんね。」
「はっはっは」
同情しつつ、笑ってくれる運転手さん。
「今ここ通ってるところはね、鉄道が走ってたんです。」
「軽便(けいべん)鉄道ってのが走ってて、それを見て題材にして、賢治さんは『銀河鉄道の夜』ってのを書いたんだねぇ。」
「あっという間に今の電車に切り替わったからねぇ。ほんとにすぐだった。」
…そうか。
当たり前だけど、日常で使われてたんだ。
今はこんなに珍しい存在のSLだけど、
当時の話を聞いて、その情景が浮かんできた。
もしかしたら今自分は、乗るよりも深くSLを感じているのかもしれない。
あのまま乗っていたら、「楽しかったー」
で終わっていたかもしれない。
一気に地に着いた感覚になった。
「花巻駅から盛岡駅まで回送になるでね、機関車が引っ張られてくんですよ。」
「まだ20分くらいあるでね、また見れるよ。」
花巻駅でまたSL銀河に会えると、運転手さんが教えてくれた。
運転手さんは、この花巻の地でどんな人生を歩んできたんだろう。
宮沢賢治が運転手さんくらいの歳まで生きていたら、どんなことがあったんだろう…
見知らぬ畑を眺めながら、想像もできない人生を想像してみた。
***
花巻駅
花巻駅に到着し、SL銀河とも無事再会。
「あ、さっき乗り遅れた人ですよね!!??」
列車の中から窓をガッと開けて話しかけてくれたのは、申し訳ない顔で別れたさっきの乗務員さんだった。
「いやぁ〜シンハナ(新花巻)から乗車だったんですね〜」
そう言って、列車の外から車内を見せてくれた。
***
またねSL銀河
かつて30年ほど岩手の地を走り、その後42年間保存されていた、SL銀河もとい、C58形蒸気機関車239号機。
東日本大震災があった後に、復興支援として2014年に再び走り始めたそう。
そして来年2023年に運行が終了する。
長い年月の間、走って、止まって、
また走って、また止まる。
乗車はできなかったけど、自分にとっての『銀河鉄道』と少し出会えた気分だった。
いつかまた会える気がした。
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