青春を終わらせたその先で

11月から散々ツイッターで騒いでいる、感傷ベクトル・田口囁一さんによる「シアロア」の再連載。

再連載自体もものすごく嬉しいし、登場人物たちのその後が読める書き下ろしエピソードも心の底から楽しみなのだけれども、なによりもそれにともなって発表される新曲群たちが、とんでもない破壊力で。特に「境界線上にて」がもう。なにあれ。

その暑苦しい興奮のままに書き殴るとする。

ちなみにこれを書くにあたって、書きたい内容をメモにまとめる、っていう作業だけで三時間かかってる。あまりに重いから、暇で死にそうな時にでも読んでください。あと、言うまでもないけど、しがない一ファンの、ただの憶測と戯れ言の塊です、あしからず。ご迷惑にならないことを祈りつつ。


シアロアの再連載が発表された時、いくつか思ったことがあって。

まず、「寿命を買い取ってもらった。一年につき、一万円で。」のあとの作品であるということ。

寿命~は原作もかなり有名なものだったから、田口囁一という人物を知らなくても、「好きな作品がコミカライズされた」ってことで手に取った原作ファンの人も多かったと思うし、そこで囁一さんのファンになった人たちも少なくないはず。そんな、今までよりも広く知られた中で、囁一さんが自分の言葉で、次になにを描くのかがすごく重要になると思っていた。

そこでの、シアロアの再連載。「あぁ、勝負をかけてきたな」と思った。思い入れも強いであろうシアロアという作品で、しかもファン以外の目に触れる機会も多いLINEマンガというフィールドで、戦うということ。覚悟がなきゃ、できないんじゃないだろうか。(「この作品で、もう少しだけ遠くへ行けそう」って書いてたから、今のところ順調なのだと思う。)

そして、「青春の始末」のあとの作品であるということ。

何度も言ってる話だけど、青春の始末というアルバムタイトルを聞いた時、私は囁一さんが感傷ベクトルを終わらせるのだと思った。感傷ベクトルは、青春そのものだと思ったから。それは、音楽活動を辞めようと思い至ったことや、春川さんのライブ活動休止によって、半分ぐらい現実のものになったのだけれど。

そしてそもそも、感傷ベクトルという存在自体が、シアロアの中に出てくる音楽を自分たちで作れないか?という発想から生まれているわけで(確かそうだったはず)。つまり、シアロアも言うまでもなく「青春」であって。じゃあ、青春を始末した今の囁一さんが、始末した青春の一部であるはずのシアロアを、どう描くのだろう?と思った。(コミックナタリーの福山リョウコ先生との対談の中で似たようなことを言っていて、びっくりした。)


そんな数々の憶測を持ったまま読み始めたシアロア新連載。

読みながら、シアロアという作品にとってこれ以上ないプラットフォームだな、と思った。

シアロアは作品の性質上、どうしてもマンガと音楽を一緒に展開する必要があって、以前はHP上で展開されていたけど、もちろん動画になっていない曲たちもあって、そのあたりはどうするのだろうと思っていた。で、なるほどと思った。LINEマンガなら新曲の動画を埋め込むこともできるし、動画のない既発曲を聴くためにLINE MUSICに誘導することもできる。多くの人の目に触れるということ以上に、シアロアのためにあるような場所だなと思った。LINEマンガおよびMUSICをこんな使い方してる人、他にいないんじゃなかろうか。まぁマンガと音楽を同じ人が作っちゃうなんて話、囁一さん以外に聞いたことがないから、当たり前といえば当たり前か。


で、ここからやっと新作の感想。既に長い。

まず、「リユニオン」。真志朗さんが「おいおい田口囁一の新曲が凄いぞ」ってツイートしてたのはこの曲のことだと思うのだけれど、本当に興奮した。リユニオン。いろんな意味があるけれど、「再会」なのかな。ギターがあまりにもカオルさんで、初めて聴いた時は少し笑ってしまった。

でも、変な言い方になるけれど、想定内だった。シアロアの新エピソードなら、こういう曲がくるよね、そうよね、って。いつもの格好いい感傷ベクトル、という感じ。

だからこそ、「境界線上にて」にひっくり返った。なんじゃこりゃ、って。ライターの沖さんもツイートしてたけど、完全にネクストフェーズ。どこにこんな引き出し隠し持ってたの、怖い…って思った。

今までのベクトルにはない曲調。系統的には黙るしかの流れになるのかもしれない。グッシーさんが「イカれたギター」って言ってたのは、対談で「シティポップ寄り」って言ってたのは、この曲かな。囁一さんが最近よく、bonobosを聴いてることにも影響受けてるのかも。スローテンポで、重めに腰にくる感じ。カッティングの格好いいこと。

なによりも、間奏が、もう。ライブではもう少し長めに引っ張りたいって言ってたけど、こんなんなら永遠にやっていてほしい。この間奏が生ドラムになるって考えたら、想像するだけで最高極まりない。

ベースは最初、完全に真志朗さんのものだと思っていて、他の人だって聞いた時、驚いた。そしてすぐに、もしかして春川さん…?って思った。そうしたら、山崎さんだった。激しく腑に落ちた。だって、この曲はストロボライツの続編的な曲なわけで、ならばベースは絶対に山崎さんでなければならない。だって、音源のストロボライツは、春川さんベース弾いていないから。ここで山崎さんを召還するあたり、さすがの一言です。

歌詞は、東くんの心情のようでもあり、一番Aメロがメジャーデビュー後、二番Aメロが事務所独立後のようにも聞こえた。これは本当に勝手な憶測中の憶測。憧れや、希望や、好きは、呪いだったりもする。


本当に、境界線上にてには、驚かされた。囁一さんは、変わっていくけど許してね、なんて言ってたけど、こんな変化なら大歓迎だ。むしろ、過去の焼き直しをし続ける、そんな音楽なんて微塵も興味ない。思い出補正のかかりまくる過去作を、最新作が軽々と凌駕して、「今が一番好き」って言わせる凄さこそが、感傷ベクトルなのだから。「自分が聴きたい曲を書いていたい」「今までのベクトルらしさを守るための手加減はしたくない」って囁一さんの言葉を、全面的に支持する。

「恋」なんて単語が入っているらしい新曲も、どんな曲なのかな。囁一さんはポップな曲なんて言っていたけれど、私の中で囁一さんは、志村と同じく「本人的にはポップな曲のつもりかもしれないけど、全然ポップじゃないよー!十分へんてこだよー!格好いいけどさぁ!」って言いたくなる曲を作ってしまう人種だと思っているので、多分単純な曲ではない気はしている。期待。


私の中の超個人的な理論として、「20代後半~30代前半最強説」っていうのがあって、この世代に作られた作品に、自分が好きだったり世間的に評価を受けた作品がとても多い気がしていて。

ゆず「栄光の架橋」27歳、バンプ「ユグドラシル」藤くん25歳、エルレ全盛期細美29~36歳、plenty「いのちのかたち」江沼27歳、サカナクション「目が明く藍色」一郎さん30歳、星野源「ばかのうた」30歳、チャットモンチー「染まるよ」えりこ25歳、フジファブリック「CHRONICLE」志村28歳、音速ライン「ナツメ」藤井さん33歳…。計算が間違っているかもしれないし、おかずのごはんを21歳で作った洋次郎や、米津さんや峯田みたいな例外もいるけれど、でもこれだけの作品がこの世代に作られている。

だから、今の囁一さんがこれから作る音楽を、本当に楽しみにしている。これがプレッシャーになってしまったら、本意ではないけれど。少なくとも、境界線上にてみたいな破壊力の楽曲がこのあとも続くようであれば、とんでもないことになるんじゃないかな。いろんなジャンルの曲が聴いてみたい。どんどん変わっていってほしい。どうせなにしたって、私は感傷ベクトルが好きなのだから。


まだ何者にでもなれるなんて盲信できるほど子供じゃないけど、死んだ目で生きられるほど大人にもなりきれない。すべてを諦めて流されて生きていくには、残りの人生はあまりにも長い。好きなことに呪われた人はみんな、生きるのが下手くそだ。それでも、もう少しだけ、もう少しだけ、足掻いてみてもいいかなって、今の囁一さんを見ていると、そんな風に思ったりする。